
本当に役に立つブランドサーベイ
配信日:2025年9月10日
ブランドサーベイほど過小評価されやすいツールはないかもしれません。ブランドサーベイは、自分たちのブランドが市場や消費者にどう見られているのかを知るための鏡のような存在です。単なる数字の集計にとどまらず、競合との差や消費者の認識を可視化し、未来に向けてどの方向に進むべきかの手がかりを与えてくれます。しかし、その有効性を発揮するには「結果をどう使うか」が鍵になります。
現場が直面する「活用の壁」
実務でよくあるのは、結果が出ても打ち手に落とせないという課題です。他社比較の数字や消費者インサイトは見えるものの、それをどう自社の戦略に結びつけるのかが不明瞭です。その結果、上司や経営陣への説得力を欠き、サーベイが「報告のための調査」で終わってしまうことも少なくありません。
そのようなことになっても、現状把握や純粋な報告を目的としたものであれば、ブランドサーベイとしては一定の役割を果たしているとも言えます。一方、そのなかに「まだ見ぬ未来の芽」が出ていることも少なくなく、ここから一歩踏み込んだ話(今後の成長戦略に結び付ける)が出来ると、更にブランドサーベイは価値を増すでしょう。
組織には「それまでの経緯」がある
しかし実際には次のようなことも起こりえます。例えば、ブランドサーベイで新しい兆しが見えても、それがこれまでの経営方針やブランドの歴史的な流れに合わないと、「今後、検討しましょう」と、実質的にスルーされてしまうことがあります。たとえば「若年層がブランドに興味を持ち始めている」というポジティブな兆しがあっても、これまで上の世代層を中心に考えていれば、そこにリソースを割こうとは考えにくいものです。結果として芽は摘まれてしまい、未来への可能性が閉ざされるのです。
時には「不都合な結果」が出ることもあります。そのような結果が出るとマーケターは「サーベイが真実を語っていないのでは?」と疑いがちで、その時もスルーするでしょう。
さらに根深いのは、組織そのものかもしれません。例えば過去の成功体験があると、それと違う示唆が出ても動けない。結局「数字は安定しているから大丈夫」と過去と現在に焦点を合わせなおす。これもスルーの一形態でしょう。これでは未来を描くどころか、ブランドサーベイ自体が変化を拒む道具になってしまいます。
ブランドサーベイ結果を「問い」に変える
ではどうすればよいのでしょうか。鍵は、ブランドサーベイの結果を「答え」ではなく「組織への問い」に変えることです。
サーベイ結果をそのままの答えとして受け止めると、多くの場合は単純な施策に流れてしまいます。たとえば「好意度は高いが購買意向が低い」という結果が出たとき、ありがちな結論は「もっと価格を下げよう」や「販促を増やそう」といった短絡的な答えです。このようなことでも構わないのですが、しかし、ここで「組織、またはブランドチームへの問い」に変えると見える景色が違ってきます。「なぜ好意度が高いのに、買うまでには至らないのか?」「その好意は憧れにとどまっていて、日常使いの動機に転換できていないのではないか?」「購買への最後の一押しを阻んでいるのは、価格そのものではなく試しやすさの欠如ではないか?」。これらはマーケティングチームの洞察力やリテラシーがものを言うステージです。
ある化粧品ブランドでは、まさにこの問いから行動が変わりました。サーベイで「イメージは良いが買ったことがない」という層が厚く存在していたのです。以前なら「ブランド理解が不足している」と解釈されていたかもしれません。けれどもう一歩踏み込み、「何が理解されていないのか?」という問いに変えた結果、「気にはなるが、自分の肌に合うか不安」というインサイトにたどり着いた。そこからトライアルサイズの商品を投入し、購買転換率が大きく改善しました。
サーベイの結果を問いに翻訳することで、単なる確認作業が「組織を動かす出発点」へと変わる。これが、サーベイを生かすか殺すかを分ける境目なのです。
また問いに変えることで前に挙げたような組織の課題を乗り越えることができます。これまでの経緯や組織文化にとって都合のよい解釈で封じ込めにくくなるうえに、問いは議論を強制し、無視しづらいのです。だからこそサーベイ結果は組織の中で生きた意味を持ち始め、未来に向けた具体的な打ち手を導き出せるようになるのです。
ブランドサーベイの実質的な目標は「未来を開く議論」と考える

ブランドサーベイの真価は組織内に「未来を開く議論」を生み出せることです。単に「現状を測る道具」から「組織に新しい視点を持ち込む触媒」に変わります。会議室での会話は数字の上下をなぞるだけではなく、「では次に何をすべきか」という前向きな議論に進む。結果として、ブランドの戦略も経営の考え方も少しずつ変わっていきます。これこそが、本当に役に立つブランドサーベイの姿なのです