ブランドの脳内体験戦略とはなにか?

値上げのブランド戦略

配信日:2025年6月4日

いま私たちは、あらゆるモノやサービスの値上げに直面しています。コメ、パン、外食、衣類、そして日用品まで、かつての「当たり前の価格」は次々と更新され、生活者の“値ごろ感”は揺らぎ続けています。企業側もそのことをよく理解しており、単なる価格転嫁ではない、納得感のある値上げを模索しています。新メニューの導入、キャンペーンの強化、説明責任の果たし方など。各社が知恵を絞るなかで、価格と価値のバランスが問われています。

1970年代、オイルショックとトヨタの決断

こうした状況を考えるとき、思い出されるのが1973年の第一次オイルショックです。原油価格が一気に数倍となり、日本全体が物価高と供給不安に揺れました。自動車産業も大きな打撃を受けましたが、その中でトヨタ自動車は特筆すべき対応を見せました。 (出典:トヨタ自動車75年史)

1974年1月、トヨタは全車種にわたり国内価格の引き上げを実施しました。しかしそれだけではありません。同時に、生産量を前年同月比で70%程度にまで減産し、販売店には「無理に売らなくてよい」という通達を出したのです。過剰な在庫が価格を崩すことを防ぎ、現場の混乱を抑えるための冷静な判断でした。

トヨタは何を考えていたのか?

この一連の動きは、単なる危機対応ではなく、戦略的な選択だったと考えられます。まず、「価格を上げるなら、売りすぎない」という姿勢。これは、価格の重みを守り、ブランドの信頼性を維持するための方法だったのでしょう。

また、販売店にムリな販売を求めなかったことは、現場との信頼関係を大切にする文化の表れです。値上げが単なる企業側の事情で終わらないようにするためには、「社内外の納得」が必要だったのです。

さらに、トヨタはその後、「燃費が良い小型車」の開発に本格的にシフトしていきます。カローラを中心とする高効率車種の開発は、時代の変化を先読みし、「これから求められる価値」を先に示すものでした。

他社との違いが浮かび上がる

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当時、多くの自動車メーカーは、原価の上昇を補うためにむしろ増産に踏み切りました。量を売って利益を確保しようという考え方です。これは短期的には合理的に見えますが、結果的に市場にはクルマが溢れ、値崩れが起きるリスクもありました。対してトヨタは、生産を絞ることでブランド価値と価格の安定を守ろうとしました。

この選択の違いこそ、価格という数字を単なる経済的な損得で判断するのではなく、「その価格が意味を持つようにどう振る舞うか」というブランド的な視点を持っていたことの表れだと考えられます。

値上げは“値段の問題”ではなく“信頼関係”をどう築くか

このトヨタの事例から学べるのは、価格設定とは単なる数値の操作ではなく、顧客との信頼関係をどう築くかという問いである、ということです。値上げの背景に「誠実な説明」や「現場との連携」、そして「これからの価値提案(燃費の良い小型車)」があるかどうかで、生活者の受け止め方は大きく変わります。

実際にトヨタは、ただ価格を上げるのではなく、売り方を変え、現場と対話し、未来に向けたクルマづくりへと方向転換をしていました。だからこそ、値上げのあとも顧客に選ばれ続けるブランドであり続けられたのだと思います。

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