
ブランドと調和
配信日:2025年4月9日
現在、世界はトランプ政権の影響で大きく揺れています。強硬な姿勢と一方的な政策によって、アメリカというブランドは「もう前のアメリカではない」と世界中の人々から距離を置かれはじめています。私たちにとって、この状況はブランド戦略におけるある有名な失敗事例と重なります。
1985年、コカ・コーラ社はより美味しい味を追求した結果、「ニューコーク」を発売しました。ブラインドテストでは消費者の評価は高く、数字では勝っていたのですが、消費者は「味」以上に「コークとの心理的なつながり」を大切にしていたのです。
ニューコークに見るブランドの裏切り

「もうこれは、自分のコークではない。」
そう感じた多くの既存顧客はコカ・コーラ社にそれを理解させるためにペプシを手に取るようになりました。ペプシもまたコークの変身を「歓迎」し、「コークは変わってしまった。いま私はペプシを飲むことにした。これが私の新しい選択だ」と広告でコークユーザーに訴求しました。
結果、3ヶ月で旧レシピの「クラシック・コーク」が復活する事態となりました。
この事例からわかるのは、どれだけ時代に合わせてアップデートしたつもりでも、調和を失えば、ブランドは裏切りと受け取られるということです。
あらためてブランドとは何でしょうか?それは単なる商品やロゴではなく、人々との「つながり」そのものなのです。つまり、その調和を失えば、ブランドは裏切りになる。
ブランドの土台にある「共鳴される価値観」
調和という言葉は、単なる同調や迎合を意味するものではありません。本当の意味での調和は、ブランドが大切にしてきた価値観や、顧客と共有されてきた“サイレントコード”を尊重する姿勢ではないでしょうか。
顧客は、ブランドが掲げるその価値観に共鳴し、信頼を寄せて支持してきました。それを無視した変化は、たとえ時代に適応するための合理的な判断だったとしても、心のつながりを断ち切る結果になりかねないのです。
スターバックスの紙ストロー導入に見るジレンマ

このジレンマは、すべてのブランドが直面します。たとえばスターバックスが紙ストローを導入した際、環境意識の高まりに対応した施策ではありましたが、これまでの使用感に慣れていたファンからは小さな違和感も生まれました。正解かどうかではなく、その変化に共鳴できるかどうかが、今の時代のブランド価値を左右しているのです。
「変わる」と「変わらない」の両立
つまり、ブランドにとっての調和とは、単にその時代の空気に合わせることではありません。誰と、どんな想いで、どんな時間軸でつながっていくのか。「変わる」と「変わらない」の両立こそが、調和の本質です。顧客を無視した一方的な変化、ブランドが大切にしてきた価値観を踏みにじるような打算的な変化は、顧客の失望を買いブランドを過去のものにするでしょう。
ブランドは、時代の中で生きる存在でありながら、人の心の中でも生き続ける存在です。「調和」は、そんなブランドの生き方を支える大切な軸なのです。