うちのブランドって何?

ブランドは、一度“らしさ”を売り渡すと、その価値は二度と同じ輝きでは戻らない。

配信日:2025年5月14日

ブランド戦略において、「やらないことを決める」というのは、一見シンプルに聞こえます。しかし、現実はそう簡単ではありません。目の前に大きな市場があり、売上が見込めるチャンスがあると、人はどうしても手を伸ばしてしまうものです。

それが一時的に成果を生むこともあります。しかし、そのとき静かに、ブランドの“らしさ”は失われはじめます。そして、一度失った“らしさ”は、二度と元の輝きでは戻らないことが多いのです。

ポルシェのSUV戦略に見る「らしさの売却」

ポルシェはもともと「独身男性が憧れる孤高のスポーツカー」でした。しかし、時代の流れとともにSUV市場の成長を目の当たりにし、カイエンなどSUVを次々に投入しました。結果、売上は劇的に伸びましたが、その代償として“ポルシェらしさ”は薄れていきました。

もちろん、ビジネス的には成功です。ただし、かつてのような「ポルシェ=自由と反骨の象徴」というイメージは、もはや過去のものです。ブランドは生き残りましたが、かつての輝きとは別物になったと言えるでしょう。これが、「売り渡した価値は、同じ輝きでは戻らない」という現実です。

一度壊れたブランドは、本当に戻れるのか?

ブランドは、一度らしさを見失うと、復活はきわめて難しくなります。ギャップ(GAP)もその一例です。ファストファッションの流行に流され、奇抜なデザインや低価格競争に走った結果、中途半端なブランドになってしまいました。

その後、「アメリカンカジュアルの王道」という原点回帰を試みましたが、失った年月の間に市場のポジションは大きく変わってしまい、かつての影響力は取り戻せていません。ブランドが持つ時間の価値は、一度壊すともう取り戻せないことが多いのです。

分けて戦うという、もうひとつの解決策

トヨタ、レクサス

では、どうすれば良かったのか。ひとつの解決策は「分けて戦う」ことです。これは、らしさを守るブランドはあえてそのままに、新たな市場には別ブランドで挑むという方法です。

たとえば、トヨタが「レクサス」を立ち上げて高級車市場に参入したのはこの典型です。トヨタブランドの「大衆性」を傷つけることなく、新市場を開拓しました。これは、企業全体では新しい価値を獲得しながら、元のブランドの“らしさ”を壊さない戦い方です。

ブランドの未来は「やらない勇気」にかかっている

ブランドは、すべての市場に手を出そうとした瞬間に、最も大切なものを失いはじめます。それが「らしさ」です。

売れるからやる。市場があるから手を出す。こうした短期的な判断は、ブランドの本質的な価値をじわじわと溶かしていきます。そして気づいたときには、もう元には戻れません。

やらないことの先にある「何をやるか」の選択

では、「やらないこと」を決めた先に、何を選び取るべきなのでしょうか。ここで重要になるのは、“らしさ”を単なる製品カテゴリーではなく、もっと高い視点で再定義することです。

ダイソンはこの好例です。彼らは決して「掃除機メーカー」ではありません。事実、彼らの「掃除機」はよくよく見ると「フロアを走る空気清浄機」のようです。つまり彼らは「空気環境を変えるテクノロジーカンパニー」として自らを定義しています。だからこそ、掃除機だけでなく空調を整える空気清浄機といった分野に事業を広げています。ただし、この拡張も決して安易なものではありません。

ヘアドライヤーへの進出は、その象徴的な例と思われます。「空気の流れと温度制御」という自社の強みを活かした展開ではありますが、“らしさ”の範囲をどこまで広げるか、その線引きは極めて難しい選択だったはずです。ヘアドライヤーは空気環境から遠く、美容の文脈で語られることが多いものです。

このように、やらないことを決めるのと同じくらい、「どこに未来を賭けるのか」も慎重に選ばなければならない。ここが難しさといえるでしょう。言えるのは、どの会社も完璧ではないし、時には短期志向になったり、または社内の意向によって“らしくない”こともする可能性があります。しかし“らしさ”から自分たちがどういう意味をもつブランドなのかを見直すことで将来の戦略が見えてくるのです。

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