記憶に残り、語りたくなるブランド体験戦略

記憶に残り、語りたくなるブランド体験戦略

配信日:2025年7月23日

近年、「広告より体験」とよく言われます。SNSが普及したことで、インスタ映えや投稿のネタとして消費者は「実感のある体験」を求めるようになりました。しかしPOPアップ・ストアのようなイベントにしても、何らかの体験キャンペーンにしても、それがどれほどブランド価値として記憶に残るかは別です。実際に体験施策を導入してみても、「楽しかったけれど、売上にはつながらなかった」「記憶に残らなかった」という声も少なくないのではないでしょうか。

ブランド体験は、単にイベントを開くことではありません。それが記憶に残り、語りたくなり、ブランドの価値と結びつくものでなければ、本当の意味での戦略にはなりません。

良い体験=ブランド価値になるとは限らない

SNS

ブランド体験というと、つい「良い時間を提供すること」と捉えがちです。たしかに、楽しい体験、心地よい時間、美味しい食事などは、顧客満足を高めます。しかし体験がどれだけ「良かった」としても、その記憶がブランドと結びついていなければ価値にはなりません。

たとえば旅行先で感動した食事があったとしても、どのブランドだったか思い出せなければ、それはただの旅の思い出で終わってしまいます。

記憶に残る体験には「語りたくなる」しかけがある

体験がブランド価値になるためには、体験者が自分の言葉で語りたくなる何かを設計すると良いのです。これはブランドが「語る」のではなく、体験者が「語りたくなる」ように仕掛けるということです。

ここで大切なのが、「ちょっと話したくなるエピソード」を体験の中に埋め込むことです。特別な驚き、小さな発見、ストーリーのある演出など。それが、思わず誰かに話したくなるきっかけになります。

アブソルートが仕掛けた「語りの連鎖」

ABSOLUT

私がマーケティングマネージャーを務めていたスウェーデンのウォッカ「アブソルート」は、この「語りたくなる仕掛け」を得意としていました。たとえば「氷のバー」キャンペーンは、バーカウンターを氷の一枚板で作りアブソルートを提供する。またグローバルキャンペーンになると「すべて氷でできた空間でウォッカを楽しむ」という非日常体験です。飲み物だけでなくグラスまでもが氷。さらに、「極寒で飲むウォッカ」というストーリー性が体験に意味を与えていました。ここで過ごした人々は、「すごかったよ、全部氷でね…」と、自然と誰かに語りたくなるのです。

また、アブソルートは広告キャンペーンも秀逸でした。ABSOLUT KYOTOやABSOLUT BANGKOKなど「シティシリーズ」では、都市の象徴的な風景をアブソルートのボトルシェイプに見立てたビジュアルで、ローカルな世界観をつくり出しました。そしてその発表プレスイベントは壮大で、メディア関係者があっと驚く仕掛けや趣向が凝らされていました。参加者は単にお酒を楽しむだけでなく、イベントそのものを「誰かに伝えたくて仕方ない」欲求にかられるものでした。

CitySeries CitySeries

ブランド体験に「物語性」を仕込む

語られる体験には、必ず「物語の要素」が含まれています。

  • なぜその形なのか?
  • なぜその場でその演出なのか?
  • どうして自分は特別に感じたのか?

これらの「なぜ?」に答える仕組みが、語りを生むのです。ただ美味しい、ただ楽しいだけでは、人は深く記憶しません。そこに理由や意味、ブランドの価値観が重なることで、体験は語れる記憶になります。それに人は、誰かに話すときに記憶を整理します。「語らせる」とは、つまり「記憶させる」ことなのです。

体験を「語り継がれる資産」に変える

結論として、ブランド体験は思い出で終わってはいけません。その体験が、語り継がれる物語として人の記憶に残るよう設計されて初めて、ブランドの資産になります。「良い体験をしてもらえば成功」のではなく、「語りたくなる体験にしてあげる」ことで、ブランドは人の口を通じて生き続けていきます。

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