今年の流行語大賞?ブラック・エレファント
配信日:2020年12月9日
コロナ・ワクチンが次々と完成しつつあります。ファイザー、モデルナなどは緊急の使用許可を申請して、近々、接種が始まるようですね。今回の開発スピードの速さはかつてない。その背景は「製薬会社各社が企業間競争を超えて協力した」「特許情報や製造能力の共有に動いた」ことにあります。有事の時ならではの動きだと思います。僕は素晴らしいと思うものの、一方で各社(国も含め)が感染症事業にあまり研究や投資をしてこなかった反省もあると思います。オランダの医療NPOの試算によると、世界大手20社の研究開発のうち、「新しい感染症」に関する案件は全体のわずか1%に過ぎないと報告されています(その理由は投資がサンクコスト化しやすいため)。ワクチンに関してはまだ安全の点で不安を感じないでもありません。一方で「命と経済」の両立をする手段として国がそれを奨励することもあるでしょう。マスコミも「安全である」「危険である」と煽る情報を出すでしょう。結果、いまのGo toのように「さて一体、どうしたものか」と個々人の迷いは更に続くと思います。
「ブラック・エレファント」という新語をご存知でしょうか。コロナの一年を振り返ると、僕の中ではこれが「今年の流行語大賞」です。ブラック・エレファントはElephant in the roomという慣用句が転じた言葉です。部屋に象がいるのに誰もそれを話題にしない。つまり明々白々の問題が目の前にあるのにそれをスルーするという意味です。そこに「ブラック」が加わるのですから、なんだか恐ろしい。「想定外の問題」というニュアンスが加わります。今回のワクチン緊急開発は手つかずにされてきた感染症問題への対応、まさしくブラック・エレファントへの対処だったと言えますが、コロナ以外にもブラック・エレファントはあります。容易に連想されるのは猛暑や豪雨など気候変動や温暖化の問題。このブラック・エレファントは経済を破壊し、人命にもかかわることが分かって、もはやスルー出来なくなりました。コロナ前から言われていたけれど、ここにきてようやく「本気」で向き合おうとしているようです。
もう、あまり言うこともないかもしれないけれど、日本特有のものは「デジタル化」がブラック・エレファントだとわかった。その存在を軽視するように、日本の競争力を僕たちは過信していたように思います。「日本はものづくりにかけては世界一」「技術力は素晴らしい」「高品質」。その通りなのですが、「ただし前提がこれまで通りであれば」という条件付きだった。実は競争のルールもビジネスの方法論も、僕たちが気づかないうちに大きく変わっていた。日本は依然、世界経済に影響力のある国ですが、ルールや前提が変わることでメインストリームから外れ始めていたのかもしれません。かつての大国が小国になる現象。これを「ポルトガル現象」と何かの本で読みました。かつて世界を席巻したポルトガル。しかしスペインとの競争に敗れ、その後、大英帝国が覇権国家の時代を迎え、完全に没落した。日本もポルトガル化する可能性があります。このブラック・エレファントは未解決です。
ところで昔、マーケティング・ディレクターをやっている時、ブランド担当たちによく話したことがありました。「問題というのは2つある。一つは過去に原因を遡れる問題。いま病気なのは過去の生活習慣に原因があったというタイプのもの。もう一つは、いまは良いけれど、このままいったら問題が起きるというタイプのもの。問題を先送りしたこと自体が原因になる問題」。問題を先送りにするとはブラック・エレファントに他ならない。あれから17年経ったけれど、これからはブラック・エレファントという言葉を使って話すようにしよう。