戦略と組織能力

配信日:2019年10月23日

マーケティングの仕事をしていて一番面白いのは何かと訊かれたら、やはり「売上を上げること」と答えます。それも組織の販売力やA&Pの大きさに依らない「戦略のチカラ」によって売上を作るのが醍醐味です。ちょっと尊大かもしれませんが。笑

しかしこれは言うほど簡単ではないし、僕も成功よりも失敗の回数のほうが断然多い。間違いや誤算はいつまでたっても付き纏うもので、ここがマーケティングの奥深さでもあります。おそらく一生かかる研鑽かもしれない。そうした実質的な試行錯誤を繰り返しながらも時々ある「ささやかな成功」の味が忘れられなくて、この仕事に打ち込んでいるようです。

考えてみれば、僕が30歳の時に、味の素ゼネラルフーヅからマキシアム・ジャパンというあまり知られていない外資に転職したのも、戦略でどれほど成果を出せるか「腕試し」をしたくなったからです。AGFでは成果も出たし勉強にもなったけれど、「これは僕のチカラではなく組織力の結果なのだ」と薄々気づいていました。多分、僕が担当者じゃなくても売れていただろう。すると僕のブランド・マネージャーとしての付加価値って一体、何だろうか。

マキシアムはある意味、AGFと真逆のマーケティング環境でした。まず酒類業界のなかでは弱小の存在。営業担当者も20人ほどしかおらず、A&Pも雀の涙。そんな状態であれば、売上をあげる拠り所は戦略のチカラしかありません。僕はそれなりにない知恵を絞りながら、一生懸命に取り組んだと思います。

戦略で売れるようになってきた頃、やがて一つのことに気づきました。「戦略はやがて他社に真似されて追い付かれる」ということ。もちろん「真似しづらい戦略(戦略的ジレンマといいます)」を相当、考え実施しては来たけれど、それでも必ず大手競合からミートゥ製品を出されてひっくり返される。そんな時、僕は「もっとA&Pがあったら」とか「もっと営業がいてくれたら」とか悔しい思いをしたものです。

同時に、世の中の成功している企業は「戦略のみではなく組織能力での差別化をしている」ということも学びました。例えば、「独特なノウハウがある」「独自の哲学や文化がある」「独自の組織体制がある」など。このようなものはなかなか他社からは見えない。仮に見えても丸ごとコピーするのが難しい。社内の奥にあるもので真似するのが困難な要素です。戦略は一旦市場に出ると丸見えです。しかし組織能力は見えにくい。だから競合他社のキーマンを高給でヘッドハントする企業が絶えないのも納得がいきます。

「戦略は面白いけど短命である」という理解があって、僕はその後、ハーシージャパンというチョコレートの会社のマーケティングディレクターになりました。このポジションは文字通り、組織体制や価値観作りを含めて全社のマーケティングに責任を持つポジションでした。しかし着任して気づいたことがあります。「僕は管理職が向かない」。特に部下のマネジメントなどは、やはり向き不向きがあるようです。これはディレクターとしては深刻な問題でした。正直、仕事が面白くなかった。組織のことを考えているよりも戦略で相手をどうやっつけるかを考えるほうが、僕には向いていたようです。

僕の価値観では、ブランド・マネージャーなど喩えるなら「草野球の選手」みたいなものでしたが、ハーシーのマーケティングディレクターは「草野球の場所取り(じゃんけんで球場を押さえる役)」みたいなもんでした(笑)。マーケターはやはりマーケティングをしている時が一番楽しい。結果、僕は独立の道を選ぶことになりました。

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