ブランドの25年。消費者とブランドの進化
配信日:2024年9月27日
現代のブランドを考えるとき、2000年代以降、消費者のニーズがどのように変わり、それに応じてブランドがどのような戦略を取ってきたかを振り返るのは意義深いものです。それぞれの時代における社会的な背景や技術の進化、そして消費者心理の変化が、ブランドの在り方に大きな影響を与えてきました。そしてその流れは現在に続いています。今日は僕の独断と偏見(!)で「ブランドの四半世紀」を俯瞰してみましょう。
2000年代はブランドにとって「体験」が重要視されるようになりました。この背景には、インターネットやモバイル技術の急速な発展があります。それまでの情報がテレビや雑誌を通じて一方的に流れていた時代から、消費者はインターネットを通じて膨大な情報にアクセスできるようになり、ブランドに対する期待が変わっていきました。もはや商品を持っているだけでは不十分で、消費者にどのような体験を提供できるかが問われるようになったのです。Appleはこの変化にいち早く対応し、iPhoneやiPodといった革新的な製品とともに、それを使うこと自体が特別な体験となるようなエコシステムを作り出しました。Apple Storeでの店舗体験や、製品のデザイン、使いやすさが、消費者に感動を与え、「使っていて心地よい」という体験そのものがブランド価値になったのです。スターバックスもまた、単なるコーヒーを売るだけでなく、店舗での居心地や特別なひとときを提供し、ブランドを通じて消費者に特別な「体験」を提供することに成功しました。
2010年代に入ると、ブランドに求められるのは「体験」だけではなく、さらに深い「価値観」でした。インターネットを通じてグローバルな問題が身近に感じられるようになり、消費者は企業がどのような社会的責任を果たしているかに注目し始めたのです。特にミレニアル世代が消費市場の中心となり、環境問題や社会的正義を意識したブランドが支持を集めるようになりました。たとえば、アウトドアブランドのパタゴニアは、環境保護活動を積極的に進める姿勢を示し、消費者はその価値観に共感してブランドを選ぶようになりました。消費者は「この製品を買うことで自分も地球環境を守る一員である」と感じられることを求めるようになったのです。同様に、ユニクロも消費者に「誰もが手の届く価格で良質な製品を」という価値観を提供しました。このように2010年代は、ブランドが持つ「価値観」に共感し、それを支持することが消費者にとって大きな意味を持つ時代となりました。
そして、2020年、突然のコロナ禍が世界を襲いました。これまで「体験」や「価値観」に重きを置いていた消費者の視点は一変し、命を守るためにどう行動するかが最優先事項となったのです。外出制限やリモートワークの拡大、マスクの着用といった新しい生活様式が急速に普及し、人々は自分自身や家族の安全を守るために、何を選び、どのような行動を取るべきかを必死に考えました。ブランドに対しても、これまでの「体験」や「価値観」よりも「この製品は安全か?」「このブランドは信頼できるか?」という問いが投げかけられました。この時期、特にリモートワークを支えるためのツールが急速に普及しました。Zoomなどのオンライン会議システムはその代表例であり、企業も個人も、デジタル上でのコミュニケーションに頼る日々が続きました。消費者は「生き延びること」に必死であり、ブランドはそれに応える形で、信頼性と安全性を提供することが最重要課題となりました。
2023年に入りコロナ禍が終息すると、消費者の意識は再び変化しています。パンデミックを経験したことで、単に「命を守る」だけでなく、「よりよく生きること」、つまり心身の健康や幸福、ウェルビーイングやサステナビリティへの関心が高まりました。特にウェルビーイングの一環として「多様性と包括性」が重視されるようになってきたと言えるでしょう。例えば資生堂のように、多様な背景を持つ消費者に向けた製品展開は今後さらに重要性を増すでしょう。ウェルビーイングへの移行は、しかし単純なものではなく、戦争や物価高といった新たな社会的課題も影響しています。
2023年以降、世界の不安定さが消費者の心に影を落とし、ブランドに対する期待も複雑化しました。企業はただ健康や心地よさを提供するだけではなく、これらの社会問題にどのように向き合い、自社の存在意義を再定義していく必要に迫られています。そこで注目されるキーワードは「パーパス」です。ブランドは単なる消費を超え、消費者とともに未来を築く存在としての新たな役割を担い始めています。