顧客体験はコントロールできるか?
配信日:2023年7月26日
7月24日の日経新聞に「Twitter、ロゴを青い鳥から「X」に変更へ」という記事が出ていました。『米起業家のイーロン・マスク氏は23日までに、買収したツイッターのロゴを青い鳥から「X」に近く変更すると明らかにした。「間もなく私たちはツイッターブランドとさよならをして、徐々に全ての鳥たちにも別れを告げるでしょう」と投稿(日経新聞7月24日)』。これに対してツイッターユーザーの反応は複雑で、青い鳥(ツイッターバード)を惜しむ声や「X」へ反発する声などもあるようですね。この記事を読んでいて、僕は西武百貨店池袋店で行われている街ぐるみの議論を思い出していました。セブン&アイホールデングスがそごう・西武の売却先としてフォートレスとヨドバシの連合を選んだことによって「池袋の顔である池袋西武がヨドバシになる」「慣れ親しんだ西武がなくなる」ことを懸念する声が街・行政・そごう西武の組合員(特に西武側)にあるという話です。これもツイッターと同じく、顧客の心理的抵抗感や違和感がベースにあるようです。
資本の論理を持ち出せば、どちらのケースも資本家や企業の好きにして良い事例ではありますが、一方で顧客によからぬブランド体験を与えてしまう可能性は大きいでしょう。「私たちの心情を無視して好き勝手な変更を加えた」と捉えられるわけです。では「今のままでもっと買ってくれたり使ってくれたりするのか?」と顧客に問えば「それは別の問題」となるかもしれません。ある倒産した地方スーパーの経営者が言っていたのですが「倒産するまで私たちは本当に頑張って地域のひとたちに向き合ってきたのに、お客さんたちはロードサイドの店のほうが安いからというだけで、そちらで買い物をするようになった。それで私たちの店がなくなると、「なくなっては困る」とおっしゃる。老人の多いこの地域に必要な店だと、いまさらながらに言う。そんな勝手な論理がありますか」。この経営者の方は倒産を経験されているだけに言葉にも迫力がありました。セブン&アイやヨドバシにしたら経営の論理をもって次のステージに進むのは致し方ないと思います。
これは経営の合理性と顧客体験を両立させることの難しさだと思います。そもそもブランドの顧客体験は企業の意思でコントロールできるだろうか?僕の見解では「コントロールできる要素もあるが、完全にコントロールできるものではない」となります。例えば「ブランド・ビジョンや企業の価値観の設定」「製品サービスの品質改善・提供」「顧客に寄り添ったコミュニケーション」など、これらはコントロール可能な要素です。一方でコントロールできない要素として、なによりも「顧客の感じ方」があるでしょう。良いと思われることでも、顧客の賛否両論があるのは仕方がないと言えます。それに「競合他社」や「経済状況、社会的トレンドのような外部環境」によっても顧客からの評価は変化するでしょうね。つまりブランドの考えやあり方を決めることは出来るものの、それをどう受け止めるかは「顧客が決める」となります。そういう意味では顧客体験のトラッキングやモニタリングを怠らないことが大事です。顧客との関係性をできるだけ把握する努力を惜しまず、時には自らの改善に努め、顧客からの信頼感を醸成する活動に注力することが重要だと思います。