ブランド・カンパニーが辿った道
配信日:2018年06月20日
すべての会社がアップルのようなブランド・カンパニーになれたらいいなぁと思います。そういうつもりで日々、仕事をしていますが、実際にはなかなかむつかしいことが多いものです。私自身もそうです。
私自身は、去年、アイカというオープンイノベーション・プラットフォームの日本での導入を進めてきました。コンサルティングの傍ら、顧客への案内、新規営業もやってきましたが、受注に結び付いたのは半年でわずか2件。どの企業でも「面白いサービスだ」とは言ってもらえるものの、「いますぐやってみたい(買います)」とはなかなか言われない結果でした。言うなれば「そのうち客」にばかりアプローチしていて「いますぐ客」とはなかなか巡り合えない状況でした。そのような種まきのなかから、2つのお客さんが仕事をくれました。そうこうしているうちに、アイカ本体そのものがアジア市場から撤退することになり、私も離れることになりました。いま思うと、なぜもっと「いますぐ客」にアプローチできなかったのかと悔やまれます。
特に営業活動では自分との「内的な葛藤」に直面することも多いものです。内的な葛藤、つまり「営業に行ってお客さんに断られるのではないか」「こちらから連絡して迷惑ではないか」という自己否定の恐怖です。私もそうでしたが、そのような恐怖があることで新規へのアポ取りはひどくハードルの高いものになります。そして(これもまたAGF時代、25年以上前の経験がありますが)、上司から「どうなっている」「どれくらい売れる見込みなのか」「訪問しているのか」という質問がひどく苦痛になります。それなのにひととは面白いもので、上司から受ける苦痛と内的な葛藤を比べた時に、多くは後者を優先するようです。
他人の目には愚かに映りますが、ひとは弱いものだという現実がここにあります。おそらく企業も同じです。阪田寛夫さんの作品に「桃次郎」というものがあります。有名な桃太郎には実は弟がいたという話です。お兄ちゃんが勇敢でリーダーシップがあってヒーローの典型のようなキャラなのに対して、桃次郎は弱虫で寒がりでひねくれ屋。そんな桃次郎もじいさんと兄貴に叱られて、きびだんごを持たされて鬼ヶ島に鬼退治にいけと言われます。しかし行ってみると、兄貴が大暴れをしたために、島にはすでに女や子供の鬼しかいません。桃次郎をみた女の鬼が近づいてくると、気の弱い桃次郎はいつものクセで、つい「ごめんなさい」と言ってしまう。しかしそれが逆に好感を持たれたのか、女や子供の鬼たちと仲良くなっていく・・・。
桃次郎は架空の話ではありますが、実はブランド・カンパニーとして尊敬されている企業も、最初は桃次郎のようだったのではと思うことがあります。そのほうが自然な感じがしますし、ジョブズ自身も「ハングリーであれ、愚かであれ」と言っていて、これは自分が桃次郎だったことを示唆しているようにも感じます。このような現実、というか実態を前提としたプロジェクトなりブランド・コンサルティングが大事だと思っています。企業の多くはそのような実態のなかで日々の活動を行っていて、多くの場合は変われずにいるのだと理解しています。変わりたいという想いはあるものの、先程の内的な葛藤のように痛みの度合いを天秤にかけた時に、動かないことを選び続けるのが多くの企業かもしれません。
ではブランド・カンパニーになれた企業(ヒト)には何があったのでしょう?おそらく、自分の弱さを率直に認めて、それを克服するために努力をする人だけ、精神的にも本当に強い人になれるのだと思います。桃次郎が桃太郎になることはないかもしれません。しかし桃次郎は自分が不甲斐ない人間だということを認めていたように思います。それでも鬼ヶ島にいく決意をして出発したことで、新しい自分に成長できたのではないか。つまり克服しようと行動した時に次のステージが見えたのではないか。ここにブランド・カンパニーが辿った道筋があるように思うのです。