自社のミッションを知る方法
配信日:2018年04月04日
ブランドを見直す時、「コンセプトは変えてはいけないのではないか」という声を聞きます。コンセプトとは「何々と言えばこのブランド」のことでポジショニングとも言います。これは市場環境によって変わる可能性があるし、変えなければならないこともあります。逆に「コンセプトは変えてはならない」という前提でブランドの見直しを試みると限られた自由度のなかで身動きが取れなくなり、結果、効果的なものになりません。よって結論から言うと「状況を鑑みてコンセプトは変更してよい」となります。
一方、リニューアルであれリブランディングであれ、ブランドの一貫性を保つため変えてはならないものもあります。それは「何故、我々はこのビジネスをしているのか」という「何故」の部分です。このブランドが存在する「社会的意義」を述べたものです。これをミッション(使命)と言います。つまりコンセプトは変えても良いがミッションは不変。さらには変更するコンセプトはミッションとの一貫性・関連性のなかで取捨選択されなければならないと言えます。これがその会社らしさを作り出すのです。
ミッションについてもう少し話しましょう。ネスレの創業者、アンリ・ネスレは当時、乳幼児の死亡率が非常に高かったことに心を痛め、母乳が十分に与えられない乳児のために安全で栄養価の高い粉ミルクを開発しました。そして彼はその製品に「母鳥がひなを見守る姿」を描いたマークをつけました。これは子供を守る母の愛を表現していて、以来、食品、栄養補助食品、チョコレート、コーヒー、ペットケアなどすべての製品ブランドに冠される「ネスレのミッション」を示すものになっています。ネスレはいまや世界一の総合食品企業になりましたが、このミッションは生き続けており、現在では「世界の飢餓や健康・栄養問題」に取り組む企業として知られています。彼らの製品ブランドは様々なコンセプトのものがありますが、基本的な一貫性はこのミッションに基づいています。
ミッションは時にはコンセプトそのものとして存在することもあります。ボルボのミッション「安全」はそのままコンセプトでもあります。そもそもボルボは「自動車を提供する以上、必ず事故は起きる」という深いジレンマを憂慮しているように思います。クルマはとても便利なものですが、運転手を殺してしまうこともあるし、歩行者を殺してしまうこともあるからです。そのような「解決しがたい本源的なリスクを伴うのが自動車というもの」と考えているのでしょう。そのようなジレンマのなかで彼らは「事故を最小にするクルマを作る」がこの問題を解消する答えであり、彼らの決意でもあったわけです。「安全」はミッションであると同時に実際的なコンセプトでもあるのです。
ボルボのような例もありますが、多くの場合、ミッションはコンセプトの上位概念にくるものです。そもそもビジネスをする理由であり、そのブランドらしさを形作る一部でもあります。企業とは何らかのミッションや企業理念を掲げて仕事をするものですが、それぞれのブランドがそのミッションを意識して作られているかどうかは別ということも多いものです。それはそれでその時々の担当者の想いや発想があるのですが、ブランドを見直す段階で自社のミッションが何だったのかを思い出すのも意義があることと思います。
単純にウェブサイトの会社概要にあるミッションを見るのも良いのですが、それでは読み手がピンとこないこともあります。言葉が抽象的過ぎたり、カバー領域が広すぎたり、具体性や独自性が感じられなかったり、言葉足らずだったり、キレイにまとめ過ぎて言葉から「熱」が感じられなかったり、時にはミッションを言っていないこともあります。そこでお勧めは自社やブランドの歴史をあらためて知ることです。特に創業者の創業の経緯、創業の志、創業者のキャリアの棚卸、世の中に提供したいと思っていた価値、その方法、情熱などを見直してみることです。つまりミッションをキーワードに「歴史」を知ることがポイント。それによってこれから着手するブランドを見る目も変わるはずです。