文化的コンテクストの変化

配信日:2023年9月27日

先週の金曜日、文楽を観に行きました。半蔵門にある国立劇場です。今年10月末で閉館してしまうとのことです。そして再開は2029年秋。しばらく先になりそうなので行くことにしました。演目は近松門左衛門の曽根崎心中。それはそれで良かったのですが、ここに書きたいことは文楽のことではありません。外食のことです。観終わって「麹町にあるピッツェリアでワインでも飲もう」となりました。しかし店がやっていないのです。このピッツェリアだけではなく、その他の店もほとんど閉まっています。たまに明かりの点いている店に入ると「もうラストオーダーです」。時間はまだ9時で、しかも金曜日の夜でしたが、レストランは軒並み9時ラストオーダーになっているようで、当然ですが人出もほとんどない状態でした。「コロナ前は観劇後に夜中のピッツァも気軽に食べられたのに、いまではすっかりルールが変わってしまったようだ」。

別の日、洋酒会社時代の部下と東横線・学芸大学駅周辺でバーホッピングをしました。いまでは友達付き合いをしているこの元・部下が「バーを開きたい」とのことで「一緒に市場調査をしてほしい」と頼まれたからです。学芸大学(住宅街)は麹町(オフィス街)と違って比較的遅くまで飲食店が開いていました。40代以上の自由業風のおじさんたちが立ち飲みや角打ちでわいわい飲んでいました。僕は年代的にも嗜好的にもこちらのグループですが、目を転じると、若い人たちのカフェでの飲み方が気になりました。お酒を飲むよりも「集まって仲間内でおしゃべりや交流する」ために時間を消費しているようでした。最近の若者はあまりお酒を飲まないというと確かにそうかもしれません。しかし僕には「コロナ前まではよくあった大箱のクラブが、いまや地元のカフェにとって替わられている」と見えました。クラブもお酒を飲むよりは仲間とダラダラ時間を過ごし、結果としてお酒もそこそこ飲む場所でした。それがいまでは、より身近で安価、さっと集まれる便利なカフェで、しかも店内よりも店先のデッキチェアに座って、夜風に吹かれながらみんなでおしゃべりする場所になっている。そこには当然、コロナ禍を経て誰かとしゃべりたいのもあるし、懐具合も影響しているでしょう。日常のカフェの位置づけが、安価で便利な「かつてのクラブ」のようになっている感がありました。

どちらも飲食の文化的なコンテクストが変わってきているのを目の当たりにしたような気がします。文化的コンテクストなどというと難しく感じますが、要は消費者の価値観が変わったことによって、消費の意味合いや感じる価値が変化していることかと思います。そして、これは外食のみならず様々な業界や製品サービスで起きていることなのだろうと思いました。僕たちはややもすると「慣れ親しんだ文脈」で顧客を捉えがちだけれど、実は違う文脈で捉えないと理解を誤るかもしれないですね。

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