半導体業界のリーバイス

配信日:2023年2月1日

NHKスペシャル「半導体大競争時代」を見ました。最近は半導体を巡る世界の動きを報じない日はないくらいに重要な位置をしめていますね。この番組では先端技術を巡る世界企業の熾烈な覇権争いを描いていました。そのなかで日本はどのように戦っていくか。正直、技術や半導体自体のことはよくわかりませんが、僕はイノベーションとマーケティングの視点で番組を見ていました。

現在、3つの「次世代半導体」があると紹介されています。それらは暮らしを変えるゲームチェンジャーの役割を持っているとのこと。詳しい説明は省きますが、まずは人工知能の「AI半導体」。次にEVや電気飛行機に使われる「パワー半導体」。最後が半導体自体の機能と効率に革新をもたらす「3D半導体」。どれもこれもかつての半導体カテゴリーからの進化系です。これらは、それまでの半導体を使う理由を打ち消してしまう「破壊的イノベーション」の典型ですね。米国が最も得意とするやり方です。日本はというと正直、「やや苦手」な印象があります。しかし日本企業には日本企業の適したイノベーションがあります。厳密にはイノベーションというより「アダプテーション(適合)」と呼ばれています。既にうまく行くことが証明されている革新的なビジネスモデルを自社の分野に導入するものです。もっとも半導体のように日進月歩の分野でそれが使えるかというと疑問符が付きます。おそらく半導体を研究する日本企業はもっと競争力のあるイノベーションを考えてくれていると期待しています。

一方、番組では面白い日本企業も出てきました。滋賀県・彦根のスクリーンという企業でした。この会社はウェハー(半導体の表面)を洗浄する「洗浄装置」で強みを発揮しています。半導体はウェハーの上に何層も回路を書き込んで作られます。表面にゴミがあるとうまく回路を書き込めないため、層を重ねるたびに洗浄する必要がある。いま世界的に半導体が増産されるなかで非常な勢いで伸びており、現に洗浄装置の市場では世界トップシェアを持っています。この会社は半導体も持っていますが、「洗浄装置」を売っているのが素晴らしい。世界で半導体の競争が熾烈になればなるほど洗浄装置の需要が伸びる。補完的にビジネスを伸ばすことができる。ふとゴールドラッシュの頃のアメリカを思い出しました。あの頃、金を掘りあてて成功した個人や企業はいたのだろうか。僕の中ではちょっと思いつきません。しかし金を掘るひとたちに「破れにくい作業服:ジーンズ」を売って成功した企業なら知っています。リーバイ・ストラウス。この会社は金を掘ることはしなかったけれど、金を掘る人間が増えれば増えるほど成功しました。スクリーンという会社は半導体業界のリーバイスかもしれませんね。

年別バックナンバー

同じカテゴリーのメルマガ #イノベーション

新規事業立ち上げのコツ

新規事業立ち上げのコツ
2022年12月21日配信
CATEGORY:イノベーション

今回の値上げは一時的なものか?

今回の値上げは一時的なものか?
2022年7月20日配信
CATEGORY:イノベーション

マーケの視点から働き方改革を反省してみた

マーケの視点から働き方改革を反省してみた
2022年6月1日配信
CATEGORY:イノベーション

地域を支える農業。農ある暮らし。

地域を支える農業。農ある暮らし。
2022年3月22日配信
CATEGORY:イノベーション

日本、または日本企業が窮地に立たされている原因は何か?

日本、または日本企業が窮地に立たされている原因は何か?
2022年2月22日配信
CATEGORY:イノベーション

サーキュラーエコノミーと企業の評判

サーキュラーエコノミーと企業の評判
2022年2月2日配信
CATEGORY:イノベーション

イノベーションを伴う新製品とは?

イノベーションを伴う新製品とは?
2022年1月26日配信
CATEGORY:イノベーション

アフガン情勢から読み取れること

アフガン情勢から読み取れること
2021年8月18日配信
CATEGORY:イノベーション

ネットフリックスと日本のテレビ業界

ネットフリックスと日本のテレビ業界
2021年8月18日配信
CATEGORY:イノベーション

そのサブスクは本当に新しいか?

そのサブスクは本当に新しいか?
2020年1月15日配信
CATEGORY:イノベーション

意図的に組織に挑むチーム

意図的に組織に挑むチーム
2019年12月18日配信
CATEGORY:イノベーション

資料請求・ご相談はこちら ▶

bmwin

『ブランド戦略をゼロベースで見直す!』
ご相談、お問い合わせはこちらから▶