新規事業立ち上げのコツ
配信日:2022年12月21日
クライアントさんの新規事業プロジェクトを同時にいくつか請け負っています。世の中の流れが速くなっているので、近いうちにプロジェクト数は増えるでしょう。プロジェクト・チームの方々には自由な発想の一方で「知覚コンピテンシー」を意識してもらうようにしています。新規事業を成功させる条件の一つは知覚コンピテンシーを使うことです。あまり聞き慣れない言葉かもしれません。「あの企業なら〇〇が作れる」「あの企業なら〇〇をやってくれる」と顧客が抱いている期待、「知覚の梃子」のことです。例えばIBMのようにメインフレームで優位な知覚コンピテンシーがあれば、ビジネス・コンサルティングやAIのようなまったく新しい事業でも「きっとうまくやるのではないか」と思わせられます。冷静に考えればメインフレームとそれらはまったく別の技術やノウハウが必要ですから、公平に言って本当に上手くやれるかどうかはわからない。しかし顧客は新規事業が始まる前から期待し、そして事業の立ち上がりを良くしてくれます。
知覚コンピテンシーを活かした新規事業が企業進化の典型的な道でしょうね。知覚コンピテンシーがなければ、新規事業は立ち上がりに苦労するでしょう。また新規事業など必要ないように見えるコア事業の強い会社でも、これがなければやはり先細りになる。昔、カルピスが味の素に買収された時、濃縮タイプのコア製品にこだわったカルピスとグルタミン酸をベースに事業領域を拡大してきた味の素の差を実感しました。「買収する側とされる側」です。新規事業がないのは、時流から外れることもあるでしょうけど、それ以上に社内のモノの見方や発想が先細りになるのでしょうね。老化とはこういう状態だと思います。だから新規事業を「考える」こと自体、企業にとっては大きな意味があるし、それが将来の自社を決める道でもあります。
新規事業開発では知覚コンピテンシーを前提にアイディエーション・コンテストを社内でやります。何も新規事業に限らなくてもよい。新製品や新サービスでもよいのですが、社内で自社らしい次のビジネスを提案してもらうのです。かつて日本企業では「提案制度」なるものが一般的にあったように思います。しかし「提案がない・少ない」「ろくなアイデアがない」などの理由で下火になっていった。でも「そもそも提案してもらうスキームが悪い」「アイデアをどう処理してフィードバックしたらよいか担当部署もよくわからない」などやり方に問題があることも少なくなかった。それらを見直せば、いまからでも企業はもっと発展し良くなるのではないか。
新規事業アイデアは、通常、30から50くらいを集めるようにしています。「質は量より生まれる」の法則どおり、できるだけ多くのアイデアをテーブルに並べることが重要です。そしてその中から「どれか一つ」を選ぶのではなく、提出されたアイデア自体の傾向を分析し、命中率の高そうなアイデアのエッセンスを見抜きます。ここからが僕たちの腕の見せどころでデータアナリストがしっかり分析し事業アイデアのオプションを提示します。このプロセス自体がアイディエーションの本質かもしれません。結局、社内の総力を挙げてアイデアを練り上げていくわけです。同時に社内を事業立ち上げ前から巻き込んでいくインターナル・ブランディングも兼ねます。つまりアイデアの発想数と同等かそれ以上に社内をコーディネイトするスキルが重要なのです。