そのサブスクは本当に新しいか?
配信日:2020年1月15日
トヨタの「KINTO」やキリンビールの「Home Tap」などサブスク・サービスがじわじわ広がってきているように思います。僕はあまりモノを買わない(所有しない)ので、サブスクは大歓迎です。特にAmazon Kindleは重宝していて本や映画はだいたいこれで済ませています。正月はスターウォーズを全作、通しで見ました。音楽も同様、こちらはApple Musicを使い倒しています。まだ使ったことがないけれど、服(特に和装)や家具(引っ越しのたびに新しい室内に応じて買い替えるコスト・手間が省ける)など、想像するにすごく便利だと思います。なにより「所有しないけれど使用する」は非常に身軽で、自分を物質的にも精神的にも自由にしてくれる提案だと思っています。
ところで、いまでこそサブスクというのは「新しいマーケティング戦略(特に価格戦略)」のひとつだけれど、僕たちのようなコンサルティング業界からすると、別に新しいものとは思わないのです。この業界では「顧問契約」という形態が一般的で「社員ではない(企業に所有されない)が仕事はする(能力を使ってもらう)」という、まさしくサブスクそのものなのです。考えてみればマンションもそう。僕は家を持たない主義なのでずっと賃貸ですが、これも「所有はしないが使い続ける」という、サブスクそのものです。
そうやって考えると、サブスクというのは言葉こそ新しいけれど、昔からある契約形態の新しい呼び方、言葉を変えただけのもののようにも思います。そういうのって、最近のイノベーションでは多いかもしれない。RPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務の自動化)もそう。これも要するに昔からある「オートメーション」です。れっきとした工場ではかなり昔からRPAです。工場のみならずオフィス業務もAI技術を使うことで、かつてのオートメーションより格段に進化した自動化だという思いを言葉に託しているのでしょう。しかし本質的にはあまり新しい意味はないかもしれません。
今後はサブスクを使った色々なサービスが出てくるでしょうね。特にありそうなのは「世間でサブスクが注目されているからウチも始めよう」という感じのものでしょうか。企業にとって魅力的なのは「サブスクは売上予測がしやすいこと」と「商品を資産と捉えたビジネス」に移行できることかと思います。つまり「簡単に儲かりそうな感じがする」。それまでクルマというのは次年度、何台売れるか分からなかった。すると何台作ったらよいかも難しかった。しかしサブスクなら「いまの会員が何人いるから月額と掛け合わせれば幾らの売上になる」「利用キャパはこれだけで一人当たりの頻度がこうだから市場にこれくらいのクルマがあればよい」と計算が出来ます。損益計算の一番難しいところが比較的簡単にわかるようになる。
一方で、そのサブスク・サービスを使ってもらえるかどうかは依然、問題として残ります。例えば僕の場合、都内に住んでいるからクルマはほとんど必要なく、もし旅行などで必要なら近所で手頃なレンタカーを借りる。おそらく月額を払うよりもずっと手頃です。逆に地方だとクルマは絶対に必要で、一人一台も珍しくないようです。所有文化が浸透していてサブスクは必要とされないのではないか。するとKINTOの顧客というのは誰になるのだろうか。ビールの場合、これも誰を対象にしたサービスなのか。僕はかなりのヘビーユーザーですが専用サーバーを家に置いて、定期的に決まったビールを買うほどのこだわりはなく、概ねいつもの黒ラベルで満足しています。もちろん一回(一杯)くらいなら試してみたいけれど、毎日はどうか。そんなビールユーザーのほうが多いのではないかな・・・。結局、サブスクが成功するかどうかは、その前提となる顧客インサイト、そしてマーケティングがしっかり練れているかどうかに依るのです。