配信日:2015年11月27日
先週は愛知県瀬戸市の中小企業大学校(中小企業基盤整備機構)で3日間のブランディング講義をしていました。瀬戸市は県境を挟んで、私の故郷の隣町です。これまでいろいろな土地で講演を行ってきましたが、生まれ故郷でのブランディング論は初めてです。3日間という長丁場だったこともありますが、資料はゆうに270ページを超えました。
受講者はすべて地元の企業、約30社の経営者や管理職の方々です。業界や業種は様々でしたが、地元企業には素材や原料などを扱っている企業も多く、どの方も抱えている悩みは同じだと気づきました。「自社の独自性や差別化が出来ない」です。みなさんと話して「差別化できない現状をブランディングで解決できないか」というニーズをひしひしと感じました。
結果、講義では「唯一無二の独自性を作り出すにはどうしたら良いか」、このような話を何度も繰り返ししました。ところで企業はその業種や扱っている製品がなんであれ、必ず「独自性」があります。その独自性を魅力化して顧客に伝えるのがブランディングの仕事です。では、その独自性はどのように見つけるのか?
第一に挙げられるのは「ミッション」に他なりません。つまり「なぜ、この仕事をしているのか」という社会的存在意義、または創業時の志のなかにヒントがあります。ブランディングで自社の歴史を知るのが大事なのはそのためです。ミッションが明確だと、それだけで企業の魅力は独自なものとして輝き始めます。
仮に、生コンクリートのような物理的な差別化が非常に難しいものを扱っていても、例えば「建設業界の偽装や改ざんがどんどん明るみにでるような世の中で、人々が本当に安心して発注できる業界を作りたい」という志があれば、それが独自性になります。その時のブランド・アイデンティティはこうです。「ウソ偽りのない生コン業者」。既に独自性と魅力を兼ね備えています。そして、ひとは自分の信念を雄弁に語る者を信じるもので、そのような志を語る経営者や企業は必ずファンを増やします。
今回の参加企業に限らず、意外とミッション不在の会社は多いのではないかと思います。仕事を定義する前に、本来は「なぜ、その仕事をするのか」を社会的視点から定義するのが大事です。それを知っていれば仕事はぶれない。目先の利害や損得がチラついても、自らの使命(ミッション)を知っていれば、その仕事に自社として取り組む意義があるかどうかがわかります。これがブランドの一貫性というもので、ブランドがどのような変化を求められようと「変えてはならないもの」と言えます。(それ以外は、仮にブランド・コンセプトであっても変えてよい)
独自性にはもう一つの切り口もあります。「経営者」がそうです。私は「社長はすべからく社長ブランドであるのが好ましい」と思っています。例えば同じ機能の同じデザインの、同じようなサービスの同じような価格帯の、同じようなスマホを扱う携帯キャリア会社であっても、NTTドコモとソフトバンクのイメージの差別化は明快です。社長ブランドが立っているかどうかです。
今回、講義に参加してくださった経営者にもお伝えしたのは「社長ブランドを作ること」でした。そのためには目の前の会社の業務をやるのみならず、世の中に出ていき、人々と交わって、例えば書籍などの出版、講演なども行って、経営者自身のブランド価値を高めることが肝要になります。「そのような経営者が経営している会社」は、それ自体が独自性と魅力を増し、必然的に業界のなかでも際立った存在になるものです。