このやり方を知っていたら、もっと上手くやれたかもしれない

配信日:2015年10月30日

日頃、企業の中には「本人たちが気付いていない暗黙知」がたくさんあるなと感じています。それは「独自の技術」とか「蓄積された市場の知見」などに限りません。これらは暗黙知ではなく、形式知と言えるでしょう。

私が感じている暗黙知とは「会社の中のプロシューマー」のことです。プロシューマーとは「そのカテゴリーや製品にプロ並みの知識を持つ消費者」です。社員の多くは、その会社なり製品なりを好きで働いているのが一般的で、日頃の暮らしのなかではそれらを使って生活をしている消費者でもあります。その人たちの「勉強もしていて消費もしている感覚」または「一般消費者よりも深いセンス」は開発やコミュニケーションに活かせるものです。

おそらく開発担当者とはプロシューマーの先端を行くような人が選ばれるのでしょうが、これが「自分ごととしての業務」になると客観性を失うようです。よく「消費者の意見を開発に活かす」と言いますが、多くのマーケターがコメントしてくれたように「消費者の意見を聞いても何も新しいものなど出てこない」のです。これは聴く相手が一般の消費者だからです。しかしプロシューマーであれば、話は別です。また「社内の人間だとバイアスがかかる」というのも一種の都市伝説のようなもので、私の経験ではそのようなこともありません。むしろ社外よりも厳しい意見が多く、マーケターへの期待と激励が含まれています。しかしそのようなプロシューマーを使いこなせていないのが現状です。

あるトイレタリーメーカーさんでの話。その会社では全く新しい価値を持つブランドを開発しようとしていました。消費者調査を実施してターゲット消費者が誰かを特定しました。しかし彼らに対して魅力的なコンセプトを作るには、まだまだ分からないことがあり過ぎました。特に分からないのは消費者のインサイトでした。

最初のミーティングで調査結果を拝見して面白いことに気づきました。「ターゲット消費者と開発担当の女性(2人)が同じプロフィールだ」。私には、まるで消費者自身が自分の欲しいものを作っているように思えました。そこでセッションではターゲット消費者と対話するように仕事は進みました。まるで消費者にデプスインタビューをする感覚です。開発担当の方々も自分の気持ちに素直になりながら自然体でコンセプトを作りました。1か月後には、とてもユニークで魅力的なものが完成しました。

このようなやり方を他のいくつかの会社さんでも臨床的にやってきました。業界やテーマは様々ですが、ほぼその有効性も見えてきました。開発のみならずプロモーション・アイデアや営業施策の立案にも使えます。思うに、私がブランド・マネージャーの時にしていたように、一人で悩みながらプランニングをするのは、もはや古く、それよりも「これはどうですか」「あれはどうですか」とターゲットと思われる社内のプロシューマーと対話しながら「ああ、そうですか」「なるほど、そうですか」と考えを編集整理していくスタイルのほうが有効だと思われます。

これを私は「壁打ち型」と呼んでいます。まるで壁にボールを投げつけて、返ってくるボールを拾いながら練習するように、プロシューマーという壁に質問というボールを投げ、インサイトという返球をもらいながら仮説を編集整理していくやり方です。このやり方を10年以上前、まだブランド・マネージャーをやっていた頃から知っていたら、もっと成果を出せていたかもしれないなぁと悔やまれます。

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