その瞬間、Aさんはブランドになった。
配信日:2013年6月26日
本格的な夏を迎えるに当たって、事務所のエアコン2機を掃除することにしました。去年は自分たちで掃除したのです。しかし、どういうわけか「お掃除してください」の赤いランプ(エアコンについています)が消えず、それを見ているだけでもストレスが溜まりそうでした。笑
そこで今年はプロの方に掃除をしてもらうことにしました。ビルの管理室にいえば業者さんの手配はしてもらえるのですが、アシスタントの中島が「良い人を知っている」とのこと。そこで、その方にお願いすることにしました。
Aさん。67歳の女性です。個人でお掃除の仕事をされています。聞けば中島のお姉さんが10年ほど前にお掃除を頼んだのが始まりで、以来、友達としてお付き合いをされているとか。今回はその紹介だったのです。
掃除の当日。お会いしてみると本当に感じの良い方で、友達付き合いをされるのもよくわかりました。そして、その掃除が素晴らしい。まずエアコンを分解し隅々までの汚れを手で落としてから、専用の道具を使い「丸洗い」という表現がぴったりなほど入念にやってくれました。本当に一生懸命、汗水たらしてやってくださるのです。
その上、エアコン2機は言うにおよばず、他にも汚れているところがあると「ここもやっておきましょう」と、次から次にやって下さるのでした。エアコンの内部の内部まで。そしてエアコン周りのその他のところまで。それなのに料金はエアコン2機分と同じ1万2000円。これ自体も非常に安い値段ですが、変わらないのです。私はびっくりしました。
お金のことだけではなく、本当に私はびっくりしたのです。よくブランディング講座で私が話すことがあります。「ブランドが生まれる瞬間について」
お客様は何かモノを買う時に、必ず何らかの期待値をもって買います。お掃除であれば「一般的にはこれくらいのサービスをしてくれて、これくらいキレイにしてくれるだろう」と。そして、その業者さんがお客さんの期待通りのサービスをして、期待通りにキレイにしてくれたとしたら、お客さんは満足するかもしれないけど、それは「想定内」であって驚きにはなりません。
しかし業者さんが、Aさんのように、こちらの期待を大きく上回りかつ「嬉しい想定外」を与えてくれたとしたら、そこに「驚き」が生まれます。この驚きの瞬間、この業者さんは特別な存在(ブランド)になることが出来ます。ブランドとはお客様の期待と受け取るものの間にある「ポジティブなギャップ」によって生まれるのです。その瞬間、ブランドは生まれ、信頼され他のお客様に紹介される存在になります。Aさんが中島の紹介で来て下さったのも、よくわかるのです。
正直、Aさんは自分の母親と同じ世代で、お掃除のお願いをするのも申し訳ないのですが、それ以上に一生懸命やってくださって、私はあらためて「仕事とはこうあるべきだなぁ」と感銘を受けました。これも驚きの一種ですね。Aさんが紹介を通じて来て下さったのもよくわかりました。
目の前のお客さんにフォーカスすること。一生懸命に仕事に取り組み喜びと驚きという「ポジティブなギャップ」を生み出し続けること。そのようなことを続けていれば、お客さんはそのブランドを放っておくことはできません。商売が末広がりに拡がっていくとは、このようなモメンタムを生みだすことなのです。
お掃除が終って、最後に私は駐車料金を別途払いますと申し出ました。これはお掃除代に含まれているとのことでしたが、そうしたかったのです。そうするとAさんは本当に喜んでくれて「これ、上げます」と、産みたてのたまごを6個もくれました。どうやら前日に同窓会があり、そこでもらったものをそのまま車に積んでいらっしゃったようなのです。またしても嬉しい想定外でした。笑