森鴎外や野口英世に比べれば私はとてつもなく容易な時代に生きている。
配信日:2013年6月17日
先日、タクシーでびっくりするような体験をしましたのでご報告します。
6月11日。その日、私は外苑前にあるクライアントさんでの仕事を終え、事務所に帰るところでした。お客さんのオフィスを出た途端、雨が激しく降ってきたので、ちょうど信号で停車しているタクシーに飛び込んだんです。
行き先を告げ、3分もすると運転手さんが話しかけてきました。「お客さん、いま、お仕事がすごく上手くいっているでしょう」私はびっくりしました。仕事が上手くいっていると言い当てられたのもそうでしたし、タクシーの運転手さんからそのようなことを言われたことは初めてだったからです。
最近の私の仕事は、どんな困難も存在しないくらい(!)上手く進んでいます。その日もカンボジアで始まる新しいプロジェクトのキックオフ・ミーティングでした。そして2時間のセッションでは、クライアントさんに充分に喜んでもらえました。
「え、運転手さん、何か視(み)えるんですか?」思わず、そう尋ねました。「いや、何かみえるわけではないのですが、私はこの10年、それこそ乞食のような人から大成功した人まで多くの人を乗せてきたんです。そのなかで仕事が上手くいっている人には共通の雰囲気がある。それ、なんだと思いますか?」そういうと、私が答える前に、しかも英語で話し始めたのです。
「成功している人は常に明るい。元気がいい。歓びの感情(Feeling of Joy)に溢れている。例えば冬の寒い時、人はどのような場所にいますか?日の当たる明るい場所にいるでしょう?ビジネスも同じ。そのような人のところに人は集まるのです。そのような状態だからどんどん良い話が入ってくる。それが更なる成功を呼び込む」
フィーリング・オブ・ジョイ。「お客さんがタクシーに乗り込んで、行き先を告げた瞬間にそう思いましたよ」運転手さんはそう言って下さいました。これ、ウソでも嬉しいと思いませんか?笑
ちょうど、雨が激しく降って道が混んでいたせいもあり、私は運転手さんと20分ほどの会話をしました。現在、70歳。元電通マンだったこと。10年ほど前に定年退職してタクシーの運転手になったこと。そして現在はハーバード大学の夜間に留学するために英語を勉強していること・・・。
運転手さんが言いました。「お客さん、私は加山雄三が大好きなんです。なぜだかわかりますか?」私はとっさに言いました。「70を超えても、いまだに若大将であり続けているからですか?」そう、そのとおり!その瞬間、ワイパーのスピードが速くなったように思いました。笑「彼は自分の年など気にしていない。いつまでも若く活力に溢れている。私は彼を尊敬しています。ですから彼のようになりたいと、彼を真似しています。尊敬できる人の真似をすることが一番、人間を成長させます」
なぜ、ハーバードに行こうとお考えなのですか?私は聞きました。「明治の頃、海外に行くなどということがありえなかった時代に、森鴎外はドイツに留学しました。夏目漱石はイギリスに留学しました。そして私の大好きな野口英世は・・・彼は本当に貧しかった。もう、想像を絶する貧しさです。そんななかで努力して勉強して、やっと北里研究所の小間使いになれました。ある時、アメリカから有名な研究者が来て、あろうことか、その人物に自分をアメリカに招いて欲しいと手紙を出した。そして・・・最終的にその夢は叶ったのです。・・・人間は夢を追い続けなければ、なんのために生きているのでしょう?私がハーバードに行く、森鴎外や野口英世に比べれば、私はとてつもなく容易い時代に生きているのです。彼らに出来たのに私に出来ないはずがないのです」
挑戦することがハーバードに行く目的なのですね。私は運転手さんの言葉をノートにメモしながら、必死に聞きました。そしてタクシーを降りる時には名刺を渡し、お礼を言いました。
久しぶりに「努力する」ということを考えた時間でした。これは運転手さん自身の「自身への言い聞かせ(自己暗示)」も含みます。アスリートがそうであるように、そして受験生がそうであるように、真剣に取り組むとはそういうことでしょう。ひょっとしたら運転手さんは、ある程度、話してもよさそうなお客には私に話したのと同じ話をしているかもしれません。それによって自分に確信を持つのです。
ある考えや言葉を何度も何度も繰り返したら、一度ではなく二度でもなく、何十回、何百回、何千回も繰り返したら、その創造力がどれほど大きいか、想像がつくでしょうか?何度も何度も表明された言葉は、その通りに表されます。つまり外部に押し出される。外部で現実化する。やがて運転手さんの物理的な現実になるのです。彼はそれを知っているように感じました。