いいかげん、覚えてくれないかなぁと苦笑します。
配信日:2013年4月1日
あるクライアントさんからショッパー・マーケティングの案件がきました。ショッパー・マーケティングってご存知ですか?消費財メーカーや量販店企業にはお馴染みのマーケティング手法です。簡単にいうと「店内での消費者個人の購買行動、購買履歴データを活用して売上を上げる手法」です。
今は、小売企業が当たり前のように、個人のポイント・カードを発行していますね。買い物をした時に提示するとポイントがたまる、あれです。ここには名前、住所、年齢、性別などがデータとして組み込まれていて、買い物をした時点で、その個人情報がPOSの売上情報と連動するようになっています。それによって「誰が」「いつ」「なにを」「いくらで」「何個」「何と一緒に」買ったのかが、購買履歴として残るわけです。これをID付POSとか、FSPと呼びます。
それを見ながら、マーケターは「なぜ、買ったのか」を推測し、「もっと売上を伸ばすにはどうしたら良いか」の仮説を持ち、実行するわけです。これをショッパー・インサイトと言います。これによって細かい顧客対応ができるという考え方です。
今回はショッパー・マーケティングの話をしたいわけではないので、詳しくは話しませんが、このような活動をするうちに店頭では「マニュアル」が登場することになります。
例えば、近所のコンビニで買い物をすると「ポイント・カードはお持ちですか」と、必ず聞かれます。これは店員が必ずやる、一種のマニュアルですね。私の場合は、カード自体を増やしたくないので、基本、コンビニのポイント・カードなど作りません。そうすると「作りますか」と聞いてくれます。これもマニュアル。
マニュアル自体は悪くないのですが、私の場合、この店にはもう10年も通っています。そして10年の間、買い物をする度に「ポイント・カードはお持ちですか」「作りますか」のやり取りをしています。「いいかげん、覚えてくれないかなぁ」と苦笑します。
似たようなことは、ほぼ毎日いくスーパーマーケットでもあります。ワインを買うと必ず、破損防止のために、瓶の首に白いネットをかぶせてくれようとします。エコじゃないので「ああ、それ要らないですよ」といいますと、「ありがとうございます」と言ってそのまま支払いになります。
これも、ほぼ10年、そういうやり取りを毎日のようにしています(笑)。正直、ちょっと面倒です。首にネットをかけるのはマニュアルなのでしょう。しかしそろそろ、私自身の顔も分かっているだろうし、「このお客さんはネットが不要な人だ」という前提で接してくれても良いように思います。
要はマニュアルが悪いわけではなくて、店員さんの臨機応変さの問題ですね。なかにはそういう対応をしてくださる人もいますが、少ないように思います。「ポイント・カードをお持ちですか」と尋ねるのは、一見、親切かもしれませんが、私の場合は、顔と名前を覚えてくれて「ああ、あなたは持っていないよね」と、笑いながら言ってくれる店員のほうが愛着がわきます。どちらの人間関係のほうが売上につながりやすいでしょうか?
そもそも昔の八百屋さんや魚屋さんは、お客さんの家族構成から好み、昨日食べたものまで、全部知っていたのです。それどころかお客さんの体調や性格まで、店主は事細かに知っていた。店主は「歩くショッパー・マーケター」そのものだったわけです。だから「きめ細かい対応」や「痒いところに手が届く提案、品揃え」が可能でした。そういう顧客理解が、ほぼ身内に近いレベルの人間関係を作り、同時に売上を作っていたのだと思います。
そのような顧客との人間関係作り。そのために現在は使えるテクノロジーや情報がある。しかしそれを使う過程ではマニュアルや生身の店員さんがいる。そこには昔の八百屋さんとは違う難しさと、小売企業の課題があるのでしょうね。