「好き」の反対は「嫌い」ではない

配信日:2012年2月15日

「好き」の反対は「嫌い」ではない

仕事柄、よく市場調査の結果をみます。
特に定量調査であれば、業界や製品は違っていても質問項目はそんなに大きく違いません。
たいていは「何々カテゴリーといえばどのブランドを思い出すか」を聞いた後に「どの程度、知っているか」「どの程度、好きか」「どの程度、買いたいか」を聞くのが普通です。

そしてこの問いに対して、五段階評価で答えてもらうことが多いものです。
例えば「ブランドXをどの程度買いたいですか?以下のものから1つだけお選び下さい」と尋ね、「非常に買いたい」「まあ買いたい」「どちらともいえない」「あまり買いたくない」「全然買いたくない」の5つから選ぶわけです。マーケティングを仕事にしている人にはお馴染みの指標ですね。

これらの調査をやっていると面白いことに気づきます。
まず調査結果と実際の売上結果は必ずしも一致しないということです。市場調査に不信感を抱く入り口であり、新人マーケターにとっての「一種の洗礼」でもあります。

しかし多くの場合、調査が不正確なのではないのです(ちゃんとした調査会社を使っているのなら)。では何かというと、調査では考慮しきれない与件によって実際の売上が左右されることが多いことが原因。

例えば調査で「市場導入後、3ヶ月以内にブランド認知を70%まで取ればこれだけの売上が見込める」という結果が出たとします。そこで70%の認知を取るために広告やパブリシティを使って認知目標をクリアするのですが、売上がそこまで伸びないことがあります。

一体、なにが悪かったのか?
調べてみると導入初期のPOSデータの結果が芳しくなく、70%の認知を取る前に流通の判断で新製品は棚から外されていたことが原因だったなどということがあります。特にコンビニの飲料のように棚スペースをめぐる激戦区ではよくあることです。認知を取る前に店頭から棚落ちしてしまっては売上は立ちません。

これは当たり前のことのように聞こえますが、実際に起きていることでもあります。あえて言うならば「3ヶ月」という時間軸の設定に別与件のはいり込む余地があったわけです。コンビニでは3ヶ月も待ってもらえなかった。

そのようなことを考えると、本当に売れるかどうかを検証するには、やはり小規模なテスト・マーケティングを行なうのが良いと思います。

もう一つの調査の傾向について。
データを見ていると「非常に好き」「非常に嫌い」など極端に良い結果や悪い結果になる場合、実際には売れることもわかってきます。「非常に嫌い」の場合でも売れるのは、それぐらい明確に好き嫌いが現れる製品は特徴がはっきりしていてターゲットが明確であることが多いからです。つまりコアな顧客をしっかり捉える良い製品です。

この場合、調査の対象にならなかった消費者が買ってくれることが多い。「意外な人達が買ってくれた」というパターンですね。例えば最近では若い女性が日本酒を買うようになってきているなどです。(かつては50代の男性の飲み物でした。)

逆に「まあ好き」が大きく出る場合、大抵はダメです。よくあるのは、「非常に好き(5%)」と「まあ好き(55%)」を足すと60%もの人が製品に好意を抱いてくれています、という結果です。たいていは売れません。

60%の人が好意を抱いてくれるにもかかわらず、売れない結果に終わるのは「まあ好き」と答えた人が、本音では「どちらでもない」と思っている可能性が高いからです。

人間は「どちらでもない」と思っていても、そうは答えたくないものなのです(笑)。本当は「あまり好きじゃない」と思っていても「どちらでもない」と答えるものなのです。これは冗談のように聞こえますが真面目な話です。

そういう本音レベルまで鑑みて調査結果を見ないと、本当の検証は難しいと思われます。つまり「好き」の反対は「嫌い」ではなく、「どちらでもない」という無関心なのです。「愛の反対は無関心だ」はマザー・テレサの言葉ですがマーケティングにおいても当てはまりますね。

私は調査結果を見る時は「非常に好き」や「非常に買いたい」の数字を重視します。同時に「まあ好き」「どちらでもない」を足して全体の多くを占めるようだと、見直しを勧めます。市場に出しても興味を持ってもらえない無関心な製品にほかならないからです。

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