地域ブランディングの目的は何か?

配信日:2011年

先月末に私がちょっとだけ協力させて頂いている(財)ブランド・マネージャー認定協会のブランドセッションに出席し、中央大学大学院の田中洋先生から「湯布院を題材にした地域ブランディング」について拝聴しました。

湯布院の面白さは2人の立役者(ブランド・マネージャー)がいたことです。中谷健太郎氏と溝口薫平氏。この2人の湯布院出身者が外の世界でキャリアを積んだ後、地元に戻り湯布院のブランディングを進めました。

キーワードになるのは「小さな別府になるな」。まさしく別府温泉という確立されたブランドのアンチテーゼを狙ったことが基本戦略です。別府といえば大分県の代表的な温泉街。団体客をターゲットとする歓楽街でありネオンの街です。一方で湯布院が目指したのは「緑」「空間」「静けさ」。

ブランディングの面白さは、このように先行している企業の真反対に新しい価値を発見することです。その結果、湯布院は主に女性雑誌に多く取り上げられるようになり、女性客を多く惹きつけることに成功しました。

温泉街のブランディングに限らず、多くのブランド・マネージャーは先行する企業のウィニング・レシピ(成功方法)を研究して自分にも取り入れようとするものですが、このように「真反対」を行うことが、実は新しい価値を生み出すポイントです。

中谷氏と溝口氏がそのような発想を出来た理由は、それまで2人が温泉街ビジネスにどっぷり浸かっていなかったからだと思われます。中谷氏は東宝撮影所で映画の助監督を、溝口氏は日田市立博物館に勤めた後、ジャーナリストとして活躍していました。業界のスペシャリストよりも業界外の「ちょっと変わったバックグラウンド」を持つ人のほうが、ブランド作りには向いているのかもしれません。

そもそも地域ブランドを作る目的は何か?
それは「地域の集客率を高めること」、つまり観光客を増やすことが目的です。同時にその地域に属している企業にとってもメリットがあります。それは「仮に企業ブランドが知られていなくても、その地域に属していることによって、きっと良い物に違いないと顧客に感じてもらうこと」です。名もない温泉旅館であっても「湯布院の」という形容詞が付くことで通常よりも集客が見込め、またそれなりの価値ある旅館と認めてもらいやすくなるのです。その結果、料金も高めに設定できる。これを「底上げ効果」と呼んでもいいでしょう。

湯布院同様、「京都」というのは日本を代表する、わかりやすい地域ブランドの典型です。その名前があるから修学旅行生が全国からやってきます。そして京都に点在するお寺や神社が賑わう結果になります。考えて見れば中学生や高校生がお寺や神社にそれほど興味があるとは思えません。しかし2日も3日もそうした寺社仏閣を見てまわるのは、まさしく「京都」という地域ブランドの集客効果です。

また京都を端的に示した「一枚の絵」も印象的です。それは「舞妓さん」に他ならず、そのようなアイコンは日本全国見ても京都しか存在しません。地域ブランド、あるいは観光マーケティングではこのように「そのエリアを端的に示す一枚の絵」を描くことが求められます。例えばスペインの「闘牛」のように。例えばNYの「自由の女神」のように。はたまたハワイの「フラダンサー」のように。観光客はそれを見たいと思うわけです。

ジングル(BGM)も重要です。その点ではJR東海の「そうだ京都、いこう」のキャンペーンが地域ブランドの集客に役立っています。かれこれ20年もやっているあのCMは秀逸で、一貫して「サウンド・オブ・ミュージック」の「私のお気に入り」がアレンジされたジングルで展開されています。成功したブランド広告の一つと言って良いでしょう。

京都がらみのジングルで更にユニークなのは洛北エリアにある大原(三千院)ではないでしょうか?昔、永六輔さんの歌で「女ひとり」という歌がありました。(古くてスミマセン。)「京都、大原、三千院~」というのが歌詞の始まりです。これはジングルとして非常によく出来ていて「京都には大原という土地があってそこには三千院という場所がある」ということを簡潔に伝えていました。旅行者は単純に「どんなところだろう」と興味を持ったに違いありません。

実際に三千院に行くとわかりますが、京都市内から相当離れているにもかかわらず、市内の寺社仏閣と変わらないほどの観光客で賑わっています。一方、同じ大原でも寂光院(平清盛の娘、建礼門院の隠居寺)はほとんど人がいません。これは「女ひとり」の歌詞に寂光院の言葉が入っていなかったからではないか?純粋にジングルの効果を証明しているようです。

地域ブランドの構築を考えている方は一度、アイコンとジングルを見直してみてはどうでしょうか?

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