胆力(腹をくくれるか)の問題

配信日:2011年

先日、ある惣菜メーカーさんから問い合わせをもらいました。この会社さんはオーナー社長が経営する中小企業です。売上の過半数が大手コンビニのPB(プライベート・ブランド)であることに危機感を感じていらっしゃいました。「自社ブランドの販売を強化してコンビニにばっさり切られても経営が傾かないようにしたい」とのことです。

「それで今後、どのようなことをお考えですか?」「自社ブランドを高級路線に切り替えていきたいと考えています。」

現在、自社ブランドはレトルトパックに入って量販店で200円や300円で売られている、いわゆる「ありふれた惣菜」です。例えばフジッコのような知名度があるわけでもなく、パッケージ・デザインも特に目を引くようなものではありません。

高級化するというのはかなりチャレンジングなことだと思いました。なにより高級化というのは価格設定のプレミアム化も意味するのですが、レトルトの惣菜カテゴリーでそれは可能なのだろうか?

例えば「惣菜カテゴリーでの高級」とは何を意味するのか、「真空パックなど既存のレトルトから離れてはどうか」など考えることは多くありますが、間違いなく言えることは「それ相応の努力なくして高級化はない」ということです。

するとあっさり言われました。「今、あまり投資をするつもりはありません。」

私は拍子抜けしました。「しかるべき努力なくして何かを得るのは普通、大変難しいですよ。」そう言うと黙ってしまいました。

一体、どこまで本気なのだろうか?投資をする気がないのは人情としてはわかりますが、まるで「お腹が空いたから牛丼を食べたいがお金は払いたくないのだ」と言っているようなものです。

そもそも投資と言っても金額的なもの以外に、時間的なものや労働傾注など人的な努力も含まれます。それらを検討することもなく「投資する気がない」というのは、要は本気でやる気じゃないのです。何の努力や犠牲も払わずに、ただ高級化したいというのはあまりにも欲が深すぎるのではないかと単純に思いました。

しかしこれも一つの答えにほかなりません。

本当に今の自分をどうにかしたいのなら努力する覚悟が試されます。腹をくくれるかどうか。つまり胆力の問題です。昔、大学のゼミで故・田島義博先生から教わった言葉を思い出しました。「ビジネスは頭、ハート、腹」

「ビジネスは冷静な頭で考えなければならないが、それの良し悪しは良心で判断しなければならない。そして最終的には胆力が試される」という意味です。

世の中には頭は良いのに何も行動を起こせない人が少なからずいますが、それは知力ほどに胆力がないからだと思われます。これは企業のなかでも同じことです。

では胆力のある人とはどんなひとか?
色々な答えがあるかと思いますが、「外の世界を見てみたい」という衝動を持っている人ではないかと思います。自分のまだ知らない世界を見たい、壁の外を見たい、既存のビジネスがこのようになったら何が起きるだろう?ということに前向きに向き合える人。

例えばサラリーマンの独立も「外の世界を見たい」という感覚が近いように思います。「勤め人としてこれまでスキルを蓄えてきたが、それを自分自身の売り物にしたら一体どんな生活になるだろうか?」という感覚です。

また胆力とは「もしこれで一文無しになっても生まれた時の状態に戻るだけだ」という感覚も含むように思います。これは孫正義さんの言葉ですが、私は一種の諸行無常観だと思います。犠牲を払うことについて、私たちは常に「失う恐怖」に向きあうのですが、その感情と上手く付き合えるようになった時に胆力は身につくのかもしれません。

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