トヨタのリコールと日本ブランドの将来

配信日:2010年

前回、一般向けメルマガのなかでプリウスのリコールについて話ましたところ、ブラ研会員さんから面白い感想を頂きましたので紹介します。

『今日のメルマガでもあった「プリウスのリコール」に関するアメリカの意図の話。まさにおっしゃる通りですね。私はそれに関連して、さらに気になることがあります。世界、特にアジアに広がる「日本製品への安心神話」が崩壊しないか?という危惧です。日本への憧れのような「日本ブランド」イメージが、今回の事件を契機に変わっていきはしないだろうか?と思っています。もしもそれが進めば、日本の製造業全体への影響は計り知れないでしょう。』(2月10日。メールにて拝受)

トヨタのリコールにあわせてホンダもリコールを始めたようですが、これなどもまさしく同様の兆候を匂わせます。ちょっと大げさかもしれませんが、今回のトヨタの事件は「日本ブランド神話」を大きく左右しかねないという前提で考えても良いのではないでしょうか?

最近では「日本ブランド」は自動車や電化製品のみならず、例えば食品などにおいても海外では人気です。先日もあるクライアントさんで日本酒についてのAOC(アペラシオン・ドゥオリジナル・コントロリ:産地呼称統制)の話をしました。

海外で日本酒というと、たいていは「安くてまずい外国製の日本酒」が出てきます。しかし今のようなグローバル・マーケットの環境では海外の消費者も本当に美味しい日本酒を知っていて、需要は日増しに大きくなっています。そのような中、このクライアントさんではAOCを導入し品質保証のプレミアム戦略を既に10年も前から行っています。

青森のリンゴだって、日本以上に中国の富裕層に人気です。それが高じて以前、中国で「青森リンゴ」という名前を中国人が商標登録するという事件も起きたくらいです。

日本ブランドはいまやより日常的な生活シーンのなかでプレミアム・ブランドとして認知されているわけです。しかし今回のような事件をきっかけにそれが崩れない保障はありません。

このような状況で必要なのは、実は個別企業の対応以上に日本政府のバックアップ、特に世界に向けて世論を形勢していく「戦略的パブリシティでのサポート」が必要だと思います。

考えてみれば昔の政治家というのは「国家産業のセールスマン」だったように思います。

典型的なのは故レーガン大統領。彼は大統領就任早々「ハリウッド映画を世界に広めるように」という方針を出しています。これなどはレーガン大統領が映画業界にいたことによる利益誘導のようにも言われていますが、私は彼が「ハリウッド映画が世界でアメリカ製品(アメリカン・カルチャー)を売る有能なセールスマンになる」と考えたからだと思っています。ジェームス・ディーンの映画が売れればリーバイスのジーンズも必然的に売れていくわけです。当時、アメリカは「双子の赤字」を抱えて経済的に行き詰っていましたから、アメリカの財政を助ける営業活動としてそのような指示を出したに違いないと思うのです。

カリフォルニアのシュワルツェネッガー知事も日本人をカリフォルニアに旅行させるためにキャンペーンのキャラクターとしてテレビCMにも出ていました。

最近の政治家はその辺のビジネス・センスに関してどうでしょうか?
今回のトヨタのリコールについて政治家がトヨタ擁護の立場でコメントをしているのを聞いたことがありません。本来ならば「日本ブランド」の信用を守るために世界中のマスコミに対してよりポジティブなニュースを作り出しても良さそうなものなのですが、そのような動きも今のところ見られません。そもそもそういう「国家のブランディング」を行う担当者(ブランド・マネージャー)というのは存在するのでしょうか?

私は政治家になる気は毛頭ありませんが、ブランド・コンサルタントの立場でいつかこのような仕事をしてみたいと考えています。

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