体験という勉強法
配信日:2010年
私がちょっとだけ協力させていただいているブランド・マネージャー認定協会ではブランディングの知識を「型」として教えています。しかしユニークなのは、受講生にインストラクターの資格を与えて他の受講生に「型」を教えさせることです。「教師は自分の知りたいことを教える」という格言もありますが、これはまさに真実で、自分の言葉で教えた知識は間違いなく自分のなかで咀嚼され自分自身に吸収されます。
更に素晴らしいのはその型を使って企業の現場で受講生(インストラクター)に実践させることです。これは非常に納得できるやり方です。なぜならば知識を使いこなすことで初めて知識は知識としての魂を吹き込まれるからです。
知識を得る(学ぶ)ということについて、人間の脳というのは机に向って勉強していると、すぐにもオーバーキャパシティになってしまうのではないでしょうか?
分かりやすいのは語学です。
日本の英語教育をどうこういうつもりはありませんし、日本語と英語の構造や成り立ちの決定的な違いを言っても始まりません。しかしトェフルなどの国際的な英語テストで国としての日本の成績が大きく見劣りするのをみると、唸らざるを得ません。
これがまさしく知識に魂が入っていない状態ではないでしょうか?
よく言われるように「英語を日常的に使うことがないから日本人は英語が苦手」というのは真実だと思います。要は「能力よりも環境」だということです。
英語でも本当は外人の友人を作ってしまえば、今、英語が話せなくても近い将来、必ず話せるようになります。環境がそうさせるからです。もっともだからといって勉強しなくてもいいわけではありません。更に勉強をすれば通常の何倍もの速さで身につくということです。
正直にいうと最初に知識の勉強をする必要はあまりないようにすら感じます。
むしろ「知識→実践」という流れを「実践→知識」と逆転させてしまう。要は「知識を得る前に体験してしまう」ほうが知識を早く吸収することが出来るものです。これはにわとりとたまごの話に近いかもしれません。しかし知識などなくても体験によって、机に向って勉強するよりもずっと効率的に学べることは多いものです。
ですから語学でも、テキストを暗記するよりもテキストについてくるCDをiPodにでも入れて通勤途中にただひたすら聞いているほうが早く身につきます。
いまでは会計事務所の所長として頑張っている私のAGF時代の元同僚N氏は、実際に会計士の資格を取る前に会社の経理部で業務に当たっていました。そのようにして日常的に経験を積んでいたので、いざ机に向って資格試験の勉強を始めたときに、出てくる専門用語や会計原則についてあらためて憶えるほどのことはなかったといいます。むしろ彼にとってテキストは「確認する」程度だったわけです。
どれだけテキストを丸暗記しても、日常で使っていなければそれは「聞きかじり程度の知識」でしかない。しかし日常で使っていると、そもそも常識すぎて憶える必要のないことが多くテキストに出ていることに気づくものです。「体験をもって知る」というのは非常に強力だと思います。そのように考えると体験とは非常に優れた勉強方法であり、ものごとを深く理解する内的コミュニケーションに他ならないと思います。
最近では会計や弁護士の資格をとっても喰えないひとが多いといいますが、そういうひとは実務経験がないからだそうです。どこの事務所も大変で新入社員を雇い入れる程の余裕がない。実務経験のない人は敬遠される。
そうならないためにも実務経験を積むことは大事なのですが、先ほどの「知識よりも先に体験してしまえ」ということを勘案すると、一石二鳥の戦略だといえます。セルフ・ブランディング戦略としてもなかなか秀逸な方法ではないでしょうか?