差別化のゴール?異質的同質性とは何か

配信日:2011年

マキシアム・ジャパン時代の同僚で、いまはドリンクプラネットというバーテンダー向けの有料ウェブ・マガジンを発行している辻美奈子さんが面白いことを書いていたので紹介します。

『ところで、年末にデジタル商戦、ポイント商戦を声高にアピールする声にのり、未だびっくりするような古い型を使い続けているテレビを買い替えるため、電化製品売り場に行ってみました。あまりの人にうんざりするよりも、何より電化製品のデザインや形が、全て似通っているのにびっくりしてしまいました。欲しいものがない・・・。買いたいのに・・・。
お店の人に聞くと、昔はいろいろな大きさや型を作っていたのだけれど、不況といわれるようになってから、大多数に売れるデザインだけしかメーカーがつくらなくなってしまったということでした。80:20の考え方です。20%側に属する人間はどうしたらいいのでしょうか。不景気だから、私のようなものはターゲット外?でも、本当につまらない。少しだけ心を動かされたのは韓国の商品で、結局購入しませんでした』(1月16日のドリンクプラネットで拝受)

「欲しいものがない。買いたいのに。」マーケッターにしてみたら悪夢のような言葉に違いありません。不景気だからといって、買いたくないわけではないということを思い知らされます。同時に20%の消費者は選別眼が企業の考えるレベルよりも高くなっていることも窺い知れます。

日頃、あまりテレビを見ないので、私のテレビもいまだにアナログ放送のものです。そんなテレビをつけると画面の上と下に「そのうち見られなくなります」という警告文が執拗に表示されるので、尚更、テレビから遠ざかっていました。そんな矢先、先ほどの辻さんの話を読んだので、私もテレビ売り場を見に行くことにしました。

確かに「特に買いたいものがない」という感覚でした。逆に言うならば「どれを買っても同じ」ということかもしれません。デザインも画質もDVDやインターネットの機能性も概ね同じように思いました。

このような状況を「異質的同質性」と呼びます。
『カテゴリーが成熟するにつれ、中にいる企業は一群となって競い合い、予測可能な一定の方向へと向かい、異質的同質性を帯びるようになる。消費者の選択肢は急増するが、それぞれの違いは消費者にとって無意味なものだ。それでも企業やマーケッターは市場に製品を増殖させ続ける。どうでもいいような違いを強調する才に長け、類似性を差別化と称する技を持つようになる。』(ビジネスで一番、大切なこと/ヤンミ・ムン著・ダイヤモンド社)

このような状況はテレビに限らず、成熟市場にあるカテゴリーでは珍しくありません。しかも最近では新カテゴリーの成熟スピードがかつてよりも速くなっているように思います。

そしてその中でシェアを獲得するには「際限のない新製品開発」や「営業力強化」、「低価格戦略」などが執られやすく、ここにレッドオーシャンが誕生することになります。

では異質的同質性を超越するにはどうしたら良いか?
そもそも製品開発の時点で「既存カテゴリーの正反対を考える」というアプローチが必要です。その際、重要なのは既存カテゴリーのベネフィットと考えられるものに対して、敢えて「ネガティブな解釈」を加えることで陳腐な存在として定義してしまい、その真反対に新カテゴリーのあるべき姿を描くことです。

かつてアップルはiMACを出した時に、それまでのパソコンを「味気ない四角い箱」と定義したに違いありません。任天堂がWiiを出した時は、それまでのコンピューターゲームを「マニアにしか分からない不健康なおもちゃ」と定義したように思います。

このように既存カテゴリーを「弱みによって定義」してしまうと新たに作り出す製品はおのずと別物になります。そのようなつまらないものを出したくない、同じようなものを出したくないと、はっきり認識した上で製品開発を進められるからです。これが「カテゴリーの新規性をもって差別化する」ことであり、新カテゴリー誕生の瞬間です。

自分が真似をしないと決めても課題はあります。次に想定されるのは、そのようにして新カテゴリーが誕生すると、競合他社は再びそれを模倣して異質的同質性が再現されることです。特に経営資源が相対的に少ない会社が作り出した新カテゴリーは上位の企業によってコピーされる可能性が高い。また経営資源の少ない会社は上位企業のコピーによって「ただ乗り」しようとするのも往々に見られます。よって製品開発の段階でもう一つの重要事項は「仮に真似されても競争優位を失わない戦略」を仕組んでおくことで、これを「戦略的ジレンマ」と呼びます。特に上位企業に真似されてしまうことが多い企業に必要な考え方です。

戦略的ジレンマとは「仮に競合が真似をした場合、彼ら自身のそれまでのロジックと矛盾する仕組み」のことで、「真似したいけど真似できない」というジレンマを誘発させる手法です。心理的参入障壁といっても良いかと思います。

プレミアム・ハンバーガーショップが1年ほど前から人気ですが、そうした店はメニューにビールなどアルコールがあります。アルコール商品は店にとっては利益商材です。しかしマクドナルドはそれを真似することが出来ません。マクドナルドの消費者は高校生なども多く含まれるため、アルコールをおくことで社会的なイメージを落とすからです。

それでも競合がなりふり構わず追随して来た場合、競合は自らのブランドを傷つける可能性があり、それによって自社の競争優位が築かれることになります。あるいは仮に別ブランドを立ち上げて追随して来た場合、新ブランドを一から立ち上げる時間とコストがかかり、その間にビジネスを先行させることが出来ます。

他者を真似しないことと、他者に真似されても差別的優位を保てること。異質的同質性の競争環境のカテゴリーでは、いかに優れたものを作るかを考える以上に、実は製品開発の初期段階での戦略思考が重要なのです。

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