国のイメージとブランド戦略

配信日:2011年

先日、政府系の産業機構さんに呼ばれて「日本ブランド」について話してきました。台湾、韓国、中国などのアジアの新興企業が海外で競争力を持つに至り、「日本製」のブランド・イメージを差別化ポイントにして対抗するにはどうしたらよいかというテーマです。

確かに国のイメージというのはビジネスにとって有効に使えることもあります。「スイス製時計」「フランス製ワイン」「ドイツ製自動車」「日本製電化製品」「イタリア製衣料」など。このような製品であれば仮にブランド名がどうであろうと消費者は「良いものに違いない」と感じてくれることでしょう。

一方で「アルバニア製時計」「中国製ワイン」「トルコ製自動車」「ロシア製電化製品」「ポーランド製衣料」など。このような製品だと、どんなにブランド名が立派でもビジネスは困難に直面しそうです。

要はカテゴリーが国のイメージに沿ったものである時に、国のイメージはビジネスにプラスに働くわけです。

しかし現在の問題はもう少し複雑で、新興国が力をいれるカテゴリーによって国のイメージを新たに作り出す状況が見受けられることです。「台湾製パソコン」「チリ製ワイン」「インド製ITテクノロジー」「韓国製エンターテインメント」「ドバイ製金融サービス」などなど。

これらはまさしくかつての大国の優位なイメージが陳腐化に直面する原因です。かつて自動車といえばアメリカだった時代があったのに、やがて日本やドイツに取って変わられたケースと同じです。かつて工業製品といえば日本だったのに、そのイメージは塗り替えられようとしているわけです。

通常、このようにイメージの陳腐化、差別化ポイントの摩耗が起こった場合、ブランディングでは「機能的価値」から「情緒的価値」に訴求点を移行させることを考えます。

参考になるのはイタリアです。「機能性ならメルセデスだけど、私はマセラッティが好きだ」と言わせるのがまさしく情緒的価値を主軸とする戦略です。そこで生きるのがやはり国のイメージ。事実、イタリアのラグジュアリー・ブランドのオーナーが次のように言っています。『(商品を売るに当たって)、商品価値の40%が商品自体、30%がライフスタイルの提案、30%がイタリアという国が持つイメージ』(イタリア式ブランドビジネスの育て方/小林元著・日経BP)

日本の情緒的価値とは何でしょうか?実はこれは業界の数だけ存在するように思います。例えばレクサスは自動車としての機能性よりも「おもてなしの心」を売っています。ダンディハウス・ミスパリはエステティックサロンの美顔や痩身を売る以上に「丁寧さ・きめ細かさ」を売っています。資生堂のクレドポー・ボーテは化粧品を売る以上に「日本的なる美意識」を売っています。

これらは海外でも認められているグローバル・ブランドで、かつそれぞれの業界に沿った「日本的なるもの」をレバレッジにしているわけです。そういう意味では最初に話したように、カテゴリーが国のイメージに沿ったものである時にビジネスにプラスに働くというのは今でも有効な考え方なのです。問題はどんなイメージをレバレッジとして持ってくるかだと思います。

再びイタリア人ビジネスマンの言葉です。『日本の製品は高機能を満載した人間のように見える。聴力は普通の人の1.5倍、視力は2倍であり、それぞれの機能としては素晴らしい。だが、どのような生き様を志向しているのかというメッセージが一向に伝わってこないように思う』(同上)

ブランド戦略に国のイメージを活かそうとするのならば、どのようなイメージを使うかを考える以前に、どのような生き様を志向するのか、どのようなライフスタイルを海外の消費者に提供するのかをまずは考えることが重要なのだと示唆しています。その文脈に沿って、使えそうな国のイメージを特定していくのが戦略構築のプロセスのように思います。

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