商売は正売に

配信日:2011年

最近は普通のテレビ広告に戻りつつあるように思いますが、2週間ほど前まではテレビを見ているとAC広告に混じって幾つかの企業も震災関係の広告を出しているのが印象的でした。「この度の震災で被災された皆様の一刻も早い復興を願っております。」

日本を元気づけるという意味もありますから、このような広告は個人的には好ましいと思います。しかし一方で賛否両論を巻き起こす可能性をはらんでいるとも思われます。「震災をネタに企業イメージのアップを図っている」と捉えられる可能性もないではありません。(純粋に善意からこのような広告をされている企業様、水をさすようなことを申し上げてすみません。)

震災を契機に多くの消費者の生活価値観は「つながり」や「きずな」を重視するものに変わったと思いますが、同時に企業の「世の中への貢献の本気度」にも敏感になったように思うのです。

私の古くからのクライアントさんに新潟県の酒造組合さんがいます。震災後のセッションでは被災した岩手、宮城、福島、茨城の蔵元に寄付を行うことを決めました。ただし日本赤十字やNPOを通じた寄付ではなく、直接、各県の酒造組合に現金を振込むのです。

その理由は「そのほうがスピーディに確実に、使って欲しい相手に全額を渡せる」からです。日頃、市場ではそれらの蔵元と競争していても、このような時はすぐさま救援の手を差し伸べる。越後人の気質か、かつて上杉謙信が武田信玄に塩を送った話にも通じるように感じました。

またセッションでは次のような言葉もありました。「中越地震では私たちが随分助けられた。助けてもらえるありがたさを一番良く知っているのは私たちだ。」

「つながり」や「きずな」を言葉としてではなく実感した瞬間でした。もちろんそれを広告で謳うようなこともしません。応援や援助というのは、本来、このように世間に公言するのではなく粛々と行う性格のもののようにも思えます。(度々、純粋な善意から広告を出している企業様、本当にすみません。)

また別のクライアントさんとの食事でのこと。当然のように震災後の企業経営についての話になりました。懇意にさせて頂いている経営戦略部長の方がおっしゃいました。「震災を受けて消費者は企業のあり方に敏感になったように思います。社内で社長が最近よく言う言葉があるのですが、これからは"商売"は"正売"に。"商流"は"正流"に。そして"消費者"は"正費者"になっていくだろうとよく言います。」

含蓄のある語呂合わせだなと思いました。そして「あり方が問われる」というのは本当にキーワードだと思いました。そのコンセプトは「正しい」というのも納得です。顧客や消費者は「まっとうなことをしている企業からまっとうな製品を買いたい」と思っているのでしょう。これが現代の消費者ニーズの本質のようにすら思います。

考えてみれば、これまでも消費者は「まっとうな製品を買いたい(正費)」と考えていたと思います。しかしそれは買い物をする時の大前提、暗黙の了解だったために、敢えて「まっとうかどうか」を考える必要すらなかったのです。

しかし企業の不祥事や中国食品の問題、エコロジー問題などを経て大前提は大前提でなくなり、震災によって一気に問題意識として顕在化したように思います。特にその企業がただ単に問題のない製品を売っているというのみならず、人間的包容力を持って消費者・社会の痛みを理解できるかどうかの観点が顕在化したように思います。そういう意味では商売のあるべき姿に戻れと言われていると感じますし、古くて新しい課題なのだと思います。

私たちはこれまで「ビジネス」という横文字の硬い言葉を使ってきましたが、最近では「商売」とか「商い(あきない)」など、昔ながらの柔らかい表現が求められているようにも思います。

大企業であっても、あたかも商店街で八百屋や魚屋を経営する店主のように、お客さんのことを良く知っていて今日の夕食の提案をしてくれるような関係性とも言えます。「ビジネス」という言葉から連想される硬くて冷たい合理的な発想ではなく、オープンで優しく、やわらかい発想を思い出すことが重要かもしれません。

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