コーポレイトブランドと事業ブランド

配信日:2011

先日、食品メーカーの方々が自宅に遊びに来てくれました。以前、社内セミナーを実施させて頂きお付き合いが始まった会社さんです。製品開発を仕事にされているマネージャーの方々でした。

私はよく親しいクライアントさんを招いてホームパーティをします。料理はすべて私が作ります。一方、クライアントさんはひとり1本ずつワインをぶら下げてきてもらいます。これが「参加費」のようなもので、そうやってみんなで飲んでわいわい楽しむのです。

いつも簡単なものしか作りませんが、今回は「食品業界の雄」とも言える会社の開発マネージャー達です。そんな人達に料理をするのは少々勇気が入りますが、何を作るかを考える時間こそが楽しいのも事実です。

食事とワインも進み気分もほぐれてきて、マーケティングやブランドの話になりました。ひとりの方が言いました。「うちの会社は会社名(コーポレイト・ブランド)が有名なので製品一つ一つのブランド名(事業ブランド)はなかなか確立しないんですよ。」

こんな事例は日本企業ではよくあります。例えばセイコーの時計ブランドには「クレドール」「ガランテ」「プライツ」「ドルチェ」「メカニカル」などの製品(事業)ブランドがありますが、多くは「セイコー」と呼ばれることが多いのではないでしょうか?

一方、外資系の消費財メーカーではコーポレイト・ブランドよりも事業ブランドのほうが有名なのが一般的です。例えば「クレスト」という歯磨きペーストはP&Gのブランドなのかコルゲートのブランドなのか?

しかし消費者が購買するのは結局、製品自体なので問題ないわけです。製品自体が有名で安心できればそれで良い。だからブランドの企業間売買が盛んに行なわれるのも問題ないし、かつてのフィリップモリス(現アルトリア)やLVMHがブランド・コレクターとしてのビジネス・スキームを組むこともごく普通のこととして存在します。

三菱など財閥系の企業名を見てみれば分かるように、一般的に言って日本企業はコーポレイト・ブランドを冠したビジネスを行い、外資系(特にアメリカ系)企業は事業ブランドを中心にビジネスを行っているようです。

何故、そのようになっているのか?
思うにここには「苗字と名前」の関係があるのではないかということです。日本人はお互いの名前を苗字で呼び合うことが多いですね。「水野さん」とか「松井さん」とか。下の名前で呼ぶのはよっぽど親しくなってからのように思います。「よしろう君」とか「ヒロシさん」とか。

一方、欧米人はお互いの名前をファーストネームで呼び合うことが殆どです。「ジョン」とか「マイケル」とか。ファミリーネームで呼び合うことはほとんどありません。

この文化の違いがブランド論にも現れているのではないかと思います。日本人にとって「家(コーポレイト)」の概念は「個人(事業名)」の概念よりも大事で、何よりもまず出所を明らかにすることが昔から重んじられる。「やあやあ我こそは~」という、源平合戦の時代にまで遡る文化ではないかと思います。

昔、私が勤めたAGFでは、公式な場所やメディアでブランドを呼ぶ時は、必ず「AGFブレンディ」というように会社名+製品ブランドで呼んでいました。これは「水野+与志朗」と呼ぶのと同じことです。(ちなみにAGFは資本構成こそ外資系ですが、実態は日本企業そのものです。)

日本では家の概念が個人よりも上に来るので、外資系企業であろうと日本に根ざしたビジネスを展開する会社では広告の最後に企業名を挿入するわけです。ファブリーズのCMでもプリングルスのCMでも、最後にP&Gのロゴが示されるのはそのため。仮に消臭剤とポテトチップスという、何のかかわりもないカテゴリーの製品ブランドであろうと、「家」を示すことは大事なのです。

一方、欧米人(特にアメリカ人)にとって「家」の概念はあまり大事ではなく、家柄や出所がどうであれ個人(事業ブランド)がどのような活躍をしたかが重要なわけです。

やはり私が昔、勤めたハーシージャパンではKISSという一口サイズのチョコレート・ブランドがありましたが、これらはKISSであってハーシーキスではありませんでした。

ちなみに、日本企業でも事業ブランドを立てる例は当然あります。同時に外資系でもコーポレイト・ブランドを立てる例も存在します。例えばユニクロはファーストリテイリングの事業ブランド。マイクロソフトはコーポレイト・ブランドです。

また元々はコーポレイト・ブランドだったものが会社ごと買収されて、それ以降、事業ブランドとして扱われるようになった例もあります。例えばLVMHの傘下にある多くのラグジュアリー・ブランドがそうです。

これらはブランド論の進化やグローバル化と無関係ではないように思います。

皆さんの会社ではどうでしょうか?
コーポレイト・ブランドと事業ブランドは苗字と名前の関係。それは日本文化の一部として顕在化している日本独自のブランド観。ちょっと面白いですね。

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