何のためにフォーカスするのか?

配信日:2011年

今回は「顧客の期待を上回る」ということについて書こうと思ったのですが、ノートに下書きをしようとしてハッと気づきました。「こんな当たり前のことについて一体、いまさら何を書けば良いのだろう?」

この商売の基本とも思えることが、しかし出来ていない企業は多いように思います。いや、こうして書いている私だって他人様のことをとやかく言えた義理ではありません。常に自分が出来ているかどうかを省みながら日々、仕事をしているというのが本当のところです。

当たり前のことなのに、何故、こんなに難しく感じるのか?
事実、色々なクライアントさんでこのような話をすると、たいていは深く反省しながら「まさしくそれが出来ていないのです」と言われます。ザ・リッツカールトンのサービス神話が多くの企業で参考にされるのも、まさしくそれが難しいからにほかなりません。

非常に単純にして基本的なことなのに、おそろしく実行が難しいテーマなのだと思います。

こんな時、エクセレントな企業はどうするかというと、自らを省みる基準を予め用意して日々の実践のなかでチェックする機能を持っています。

例えばザッポスのそれは有名です。

「サービスを通じてワオ!という驚きを届けているか?」
「変化を受け入れ変化を推進しているか?」
「楽しさとちょっと変なものを創造しているか?」
「冒険・創造・オープンマインドか?」
「オープンで誠実か?」
「より少ないものからより多くのものを生み出しているか?」
「情熱と強い意志はあるか?」
「謙虚か?」

顧客と接する現場で、あるいは企画の現場で、各人がこれらの問いかけを自らに行い、オッケーか、オッケーじゃないかを判断することから顧客の期待を上回るサービスは生まれます。その結果、ザッポスは自分たちのことを「ウェブ靴屋」とは定義しないのです。彼らの定義は「たまたま靴を売ることになったサービス業」。自分たちのセルフ・イメージはサービス業であって靴屋ではないのですね。

何故、フォーカスをする必要があるのか?
このテーマも実は「顧客の期待を上回ること」と関係があります。フォーカスするのは、その分野に関して顧客の何倍も詳しくなり、彼らの想像を超えた製品・サービスを提供するためです。

まさしく職人が一つの分野に関してのみ職人になるように、企業も一人の職人なのですね。

人間も企業もオールマイティにはなれないし、なる必要もありません。ある分野に関してのみ究極的に詳しくなるだけでも人生は短いに違いない。そのような正真正銘のスペシャリストになるには、いろいろな分野に触手を伸ばす余裕はないのです。

多くの会社は多くの分野に触手を伸ばしています。競合がそこに参入すれば自分も参入します。せっかく専業メーカーとして成功したかと思えば、すぐにフルライン化を指向します。「どの分野でも顧客の期待を上回る製品・サービスを提供できる」と考えるのは、一種の驕りではないかと思います。所詮、そんなことは無理な相談で、結果、どの事業も中途半端になり全体の収益性が悪化するわけです。

フォーカスというと「本業以外に手を出さない」という意味で理解する人は多いのですが、問題は「何のために手を出さないか」です。それは「本業に関して誰よりも詳しくなる」という目的があります。それによって顧客の想像を超えることを狙うのです。一般にブランド論では「一貫性を保つ」ためにフォーカスすると考えますが、このように考えるほうが私は好きです。

これまで何度も「フォーカスがぶれていますから事業の優先順位を付けましょう」という話をクライアントさんでしてきました。そのたびに、大抵はあまりノリ気じゃない反応を頂いて来ました。

何かを犠牲にすることは確かに怖い。単純に考えて売上が落ちると。
しかし「本業に関して誰よりも詳しくなる」という話をすると、非常に前向きな反応を頂けます。意味は同じなのですが、こちらのほうが納得しやすいのでしょうね。

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