国家が借金の肩代わりをするということ

配信日:2011年

ギリシャの問題は混迷を極めているようですね。それは国内にとどまらず、EU圏はもちろん、その他の国も固唾を飲んで見守っているという状況です。

国家が破綻しかけている時はどうしたら良いのでしょうか?公共性の強い企業ならこんな時は国家が借金の肩代わりをする。よく知られているのは金融危機の時の不良債権問題と銀行への公的資金投入でした。

金融庁のホームページに面白い記事を発見しました。Q&A形式の受け答えになっているものです。

『Q:普通の企業は、倒産しても何ら国から面倒見てもらえないのに、どうして金融機関だけが公的資金を投入して救済されるのですか?

A:何故、金融機関だけにこのような制度が設けられているのかということですが、金融機関の業務には、次のような公共的な役割があります。すなわち、金融機関は、預金等で受け入れたお金を企業・個人等に対して融資するという金融仲介業務や、口座の付け替えにより各種経済取引を決済するという決済業務を営んでおります。このような業務を行う金融機関は、経済のインフラとしての公共性を持っております。経済活動が円滑に行われるためには、金融機関を通じたお金の流れが滞らないことが必要不可欠です。このため、公的資金の枠組みにより、金融機関の破綻に伴う混乱を最小限に留めたり、金融機関の資本を増強して健全性を高めたりすることによって、経済の言わば動脈である金融が滞ることのないようにして、預金者や借り手、更には国民みんなが安心して暮らせるようにしているのです』(金融庁のHPより掲載)

これは「何故、金融機関だけが?」という質問に対しては正論の答えでして、誰も反論はできないのです。しかし注意深く見て頂きたいのは「金融機関の資本を増強して」という部分です。

資本の増強などというのは本来、企業自身が行うことです。
そもそも何故、資本の増強が必要かというと、融資先(借り手)がちゃんと返済をしないからです。これを「不良債権」と言いますね。結局、貸したものが返ってこないので銀行は泣き寝入りするしかない。つまり自己資本を切り崩して穴を埋めるわけです。

このようなことが多くなると、銀行は神経症的に融資に慎重になります。それがいわゆる「貸し渋り」です。しかしここにも問題があって、貸し渋りをするということは預金者から預かったお金を運用出来ないということであり、銀行経営で言うところの「売上」が立ちにくい状況を生み出す結果になります。一方、貸し渋りが起こると企業はリストラや倒産が増え、銀行への預金も減っていく。

どの企業でもそうですが売上が立たなければ縮小均衡しかありえない。しかも預金という「商品の仕入れ」も減っていく。その結果、公的資金の投入によって、減っていく自己資本の増強を図り売上が立たなくても経営が成り立つようにするのです。これは一企業の問題を国家が対症療法的に肩代わりしている特殊な話にほかなりません。

国家が公共性の強い企業を助けるというのは大局的には納得できますが、私は「資本主義の死」を意味するとも思います。記憶に新しいのは米ゼネラルモーターズ社のケースです。

ゼネラルモーターズの存在はアメリカ経済にとって無視できないものであり、倒産することでの社会的インパクトを勘案すると政府の介入は致し方ないものでした。

2009年に米ゼネラルモーターズはチャプターイレブンを申請しました。そして政府の介入により実質的に国有企業として再建を目指すことになりました。自動車業界におけるビッグスリーと言われた会社、そのような立派なブランドを構築した会社にしてそのような現実があります。

これはブランド神話の崩壊でしょうか?
残念ながら、私の目にはゼネラルモーターズの破綻は必然的なものに見えました。大型で燃費が悪く、デザインもイマイチで、かつ安売りばかりしているブランドなど、まったく魅力的ではないと思っていました。どれほど新ブランドや新型車を開発しようと、どれほど営業が頑張ろうと、あのようなマーケティングを行なっている会社が「ビッグスリー」などと呼ばれること自体が悪い冗談のように思えました。「一体、誰が買っているのか?」ゼネラルモーターズの破綻など、紛れもなく彼ら自身の失敗にほかならないと思います。

それでも会社としての公共性を考えると政府が介入してでも助ける必要があるのです。まさしく資本主義の原理原則に反するものだと思いました。

かつて国鉄がJRとして民営化される時はもっとひどい結末でした。
巨額の借金があると私たちは聞かされていました。そして28兆円の借金のうち16兆円は国が被り、3兆円は国鉄生産事業本部が、7000億円はJRが負担し、残りは債務免除となりました。

この規模の借金が免除されるというのは凄いことですね。
国鉄は実は駅前の土地など30兆円の資産を持っていたと言われています。
本当に借金を返すならば、これらの資産を売却してから民営化するべきだったと思います。なぜなら、これらの資産は国民のものだったからです。それが現在はJRという一企業の資産になっているというのは、ちょっとおかしな話のようにも感じます。

私は借金が悪いことだとは思いません。経営の手段であり、借金は借金以上でも以下でもありません。しかし返す気のない借金は確信犯であり悪だと思います。

ブランディングやマーケティングで最も有効な戦略は「ルールを作る立場になる」ことです。そのためにマーケターは「新カテゴリーを作る」ことを考えます。国家というのは法律という形でまさしくそのルールを作る立場にいます。私たちが知っている借金のルールは「返済する」ということでしょう。しかし公共性の強い企業の場合はそのルールがあからさまに変更されるということも私たちは経験してきているようです。

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